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第9話 爆発

 

  

 レイヴェニスタ帝国の都――それはこの世界の中心。そびえ立つ城、統一性のある建造物、行き交う人々、全てのものに圧倒される。そしてこの都に今【力】を持つ者達は連れてこられている。裁判をうけ、魔女として、処刑されるために。


 でも俺は間に合った。まだチェリカは都に到着していない。助けてやれる! チェリカを連れた騎馬兵達もそろそる到着するだろう。その時にどうやって助け出すか――。


 今城下町を見てまわっているこの時も、兵士達は至る所に見かけることができた。警備は厳しそうだ。ヘタをすれば、助けるどころか、お互いそろって処刑されてしまうかもしれない。どこかに隙を見つけるしかないんだ。


 一通り、町の中を見て回る。巨大な城へと続く城門の前には、やはり多くの警備兵がいるようだ。そのほか、市街の至る場所を見て回ったが、警備の穴はどこにも無いように見えた。


 道行く人々にも話を聞いてみる。魔女裁判は城内で行われるらしい。そして裁判を終えた魔女は、町の中心にある広場へと連れて行かれ、大観衆のなか、処刑されるという。


 チャンスは一度だけかもしれない。大観衆のなか処刑されるという、その一度だけ。広場に多くの人が集まるなかならば、目立たずに動けるかもしれない。そして人ごみの混乱に乗じて逃げ出せばいい。




 色々聞き回っているうちに日が暮れてきた。宿へ行き、部屋の窓を開けた。そのままベッドに横になる。


 明日、きっとチェリカを連れた騎馬兵は到着するだろう。失敗は出来ない。


「チェリカ、絶対助け出すからな。そして一緒に村に帰ろう」


 俺は目を閉じ、そしてそのまま眠っていた。









 ドドドドド。


 俺は聞き覚えのある音で眠りから覚めた。


「来た……!」


 ベッドから飛び起き、慌てて窓の外をみる。あの雨の日に見たままの姿で騎馬兵達はやってきた。


「チェリカ……!」


 やはり黒いフードをかぶり、両手を後ろ手に縛られている。そして馬から引きずり降ろされていた。


 急いで外に出る。兵達とチェリカまだ宿の前にいた。この位置からは顔は見えないが、衰弱しているのだろうか、チェリカはぐったりとうなだれていた。今すぐでもチェリカを助け出したかったが、もし騒ぎを起こし、俺まで捕まってしまったら元も子もないと思い、ただ見ている事しか出来なかった。


 そして兵達とチェリカは歩き出した。


 チェリカは一瞬横を向いた。


 そしてその瞬間チェリカと目があった。


 チェリカは目を見開いた。俺に気付いたようだった。俺はチェリカに手を伸ばしかけた――が、チェリカは兵達に押され再び前を向き歩きだした。伸ばしかけた手を戻す。


 少し間を置いて、城門前まで向かう。途中通り過ぎた広場には何かを囲んだ人だかりが出来ていた。人だかりの隙間から覗き見ると、広場の中央に大きな十字架がみえた。あそこにはりつけて、処刑するというのか。







 

 チェリカが城へと連れられてどれくらいたっただろう。城門の前で待ち続けるうちに、空は雲が増え、どんどん暗くなっていった。


「雨が降るな」


 そうと呟いた時、重厚な音を立てて城門が開いた。しかし中から出てきたのはチェリカではない。あれは――レイヴェニスタ皇帝。多くの兵を従えた皇帝は広場へと向かおうとしていた。俺は広場へと走り、人をかき分け円状にできた人だかりの前の方へと押し進んだ。皇帝が広場に到着すると、円状の人だかりはますます大きくなった。そして、十字架の前へ進み出て、皇帝は言った。


「今日、ここで処刑する者は魔女であり、その【力】を使い国家転覆を企てた大罪人である」


 人々から歓声があがる。


「魔女は生かしておいてはならない!」


 再び歓声があがる。そして二人の兵に押さえられチェリカが連れてこられた。さっきまで着ていた黒フードではなく、真っ白な服を着せられていた。二人の兵は今にもチェリカを十字架にはりつけようとしている。


「よって、この魔女を火あぶりの刑に処する!」


 人々からの怒号にも近い歓声は頭が割れそうになる程だった。


 もう、今しかない――!


 俺は警備の兵を振り切り、中央の十字架へ走る。人々の中から叫び声が聞こえた。兵士達が追ってくる。皇帝が何か兵士達に命令している。


 チェリカがこっちを向いた。俺は手を伸ばす。




 全ての動きが鈍く感じた。それは自分の鼓動ですらも。――チェリカが何か叫んでいる。






 次の瞬間、目の前が紅く染まった。



 火が付けられてしまったのか――。


 ――いや、違う――。


「イリア!!」


 チェリカが叫んでいる――。


 がくりと膝が折れた。胸に手を当てる。何かが背中から刺され貫通している。

血が溢れ出る。 


 目の前にチェリカはいるのに、届かない。足は動かない。そしてチェリカははりつけにされ、足元に積み上げられた角材に火がつけられた。



 火はどんどん大きくなる。

 チェリカは泣いていた。



 ……ごめん、チェリカ。



 俺は――。



 間に合わなかった……。







 次の瞬間、俺の中で何かが爆発した。



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