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第68話 その死の先に


 死の際に見た夢。


 強い願いを抱いていたから訪れた、その世界での出会いこそが、私達が起こした最後の奇跡。






「思い出した。私はあの日――」


「――生まれた」


 声が重なった。目を開けても、重なった声の主の姿は見えない。加えて言うなら、私の体の輪郭すらもおぼろげだ。


 私は死の記憶を手放し、彼女は長い時を経ながらもずっと残し続けていた願いを託し、消えた。

 二人分の代償と、二人分の強い願いとを背負って、私はあの日生まれたのだ。

 夢の世界から、現実の世界の私へと生まれ変わる為に私が行き着いた先。それは――。




「チェリカ……」


 再び、瞼を開けたその先には、イリアが跪いていた。そう――私の体を抱えて。

 現実の世界の私は死んだ。

 けれど、確かに私はそこにいた。傷を負い、泥まみれになり、私の体を抱き涙を流すイリアのそばに、私はいた。ごめんなと、自分を責めながら墓標を作る彼のそばに、私はずっと一緒にいた。来てくれて嬉しかったと応え、涙を拭おうと手を伸ばす。しかし私の声は届かなかった。その手で彼に触れることは叶わなかった。

 私を埋め、イリアは崩れた。起き上がる力すらもないほど憔悴しきっているようにも見えた。いや、実際あの怪我で起き上がれるはずもなかった。もしあの時、彼女が来てくれなければ――。

 彼女はいとも簡単にイリアの怪我を治した。それが外見上だけのことであることは、もちろん分かっている。彼の心に負った傷がどれほど深いものであることも分かっているつもりだった。

 それでも、あの胸の刺し貫かれていた怪我が治ったということは、とりあえずイリアの命の心配はなくなったということだ。


 その時、気付いた。

 イリアは泣いていた。静かに、けれど止めどなく涙を流していた。その顔を見て酷く心が痛んだのは、その涙が私のせいで流していることを知っていたからだ。


 ごめんね、イリア……。


 そう言って伸ばしかけた手を戻す。届かないことを思い出したからだ。今の私の声も、手も届かない。今のこの私のままでは――。

 もう、行かなければいけないんだ。ここにいつまでもいたところで、イリアを救うことは出来ない。


 彼を、救う。それが私の――私達の願いなんだから。意図せず手にしてしまった破壊の【力】で、苦しむ彼を救うということが――。


 二人の姿を見届けたあと、私の体はふわりと浮いた。空高く、みるみるうちに二人の姿は見えなくなっていった。上昇は止まらない。

 イリアを、彼を救うために、私は動き出さなければいけないのだ。


 しかし、やがて気付いた。

 記憶が――私が今まで生きてきた記憶が消えていくことに。

 それは、生まれ変わる為の副作用なのか、高く昇るとともに、ひとつ、またひとつと現実の世界で生きてきた記憶が消えていく。

 それと同時に塗り替えられていった。この悲しい現実で生きた私の記憶と、夢の中の平和な世界で生きた私との記憶が。


 分からなくなっていく。


 何もかもが。


 消えていく。


 最期の記憶が。


 全て、消える。


 私の願いも、あなたの願いも。


「イリア……」


 ただ消える瞬間、彼の泣き顔を思い出した。


「……泣かないで――」




更新がすごく遅くなりすみません。

あとはラストまで突っ走ります!

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