表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/104

第6話 魔女の子供達

 帝都をその中央に構え、他のどの大陸よりも群を抜いて栄えるサウスリア大陸。シールスを出発して半日、私は新たな地へと足を下ろしていた。大陸の玄関として数多くの商船、漁船、客船が寄港しる港町、ラスツール。行き交う人々の波・波・波。太陽の光ががさんさんと降り注いでいる。今日は暑くなりそうだ。


 もともと私のいた大陸は小さい上に、人口もそれほど多くなかったので、さすが、というべきか帝都のある大陸は違うものだと驚いた。何より、この人の多さ。


 私は地図を広げた。帝都に行くためには少なくともあと一週間はかかりそうだ。イリアは今一体、どこにいるのだろうか。


 手を頭の上に掲げ、日を遮りながら歩く。それにしても人が多い。慣れない人ごみをかき分けて進むのに何度も立ち往生してしまった。


「暑い……」


 何か飲み物でも買おうかと財布を荷物の中から取り出そうとした時だった。


「泥棒っ!」


 誰かの声が辺りに響いた。


「誰か捕まえて!泥棒よっ!」


 後ろを振り返ると、猛スピードで走る女がいた。人ごみをかき分けながら、泥棒と呼ばれた女は、こちらに一直線に向かってくる。私は身構えた。捕まえられるかもしれない。しかし――。


 私の目の前で女泥棒はにっと笑い、その姿を消した。そう、文字通り一瞬で消えてしまったのだ。


「!?」


 突然の事に声が出なかった。人が消えた、そんな目の前で起きた有り得ない出来事に私は呆然突然立ち尽くしていると、遅れて泥棒の被害にあったと思われる中年の女性が、はぁはぁと息を切らしやってきた。


「消えちまったかい?」

「あっ! はい、消えて……しまいました。ごめんなさい、捕まえられると思ったんですけど」


「いや、いいんだよ。あの女泥棒に盗まれてしまったのなら仕方ない」


 中年の女性はさっきの女泥棒を知っているようだった。


「あの、さっきの女泥棒……消えてしまったんですけど、どうしたんでしょう」

「あの女泥棒は【力】を持っているのさ。あんた、この町は初めてかい? だったら気をつけなさい。荷物からは目を離さないようにね」


 そう言うと中年の女性は諦めてしまったのかとぼとぼと来た道を帰っていく。

さっきの女泥棒は【力】を持っているのか。一体、何の【力】なんだろう。


 私は改めて飲み物を買おうと荷物の中から財布を探す。


「あれ?」


 財布がない。あわてて荷物を地面におき、中身をガサゴソと探す。


「盗まれた!?」


 さっきの女泥棒だろうか。きっとさっきの一瞬でスラれたんだ。どうしよう。見知らぬ地で知り合いもなくお金もない。頭がぐるぐるした。どうしよう、どうしよう――。


 

『お姉ちゃん、どうしたの?』


 どこからか声がした。あたりを見回すと、小さな男の子がこちらを見ていた。


『困ってるの? 僕、見たよ。さっきの泥棒のお姉さん、お姉ちゃんのお財布盗んでいったよ』


 男の子がこちらへ歩いてくる。


『ごめんね。びっくりした? これは僕の【力】だよ。声に出さなくてもおしゃべりできるんだ』


 男の子が私の目の前で立ち止まる。


『返してもらいに行こう!』


「え……?」

『僕、あのお姉さんと友達なんだ。きっと返してもらえるよ!』


 男の子は尚も口ではなく、頭に直接話しかけてくる。


『行こう!』


 男の子は私の手を引き行こうと促す。


「あの泥棒の居場所、知ってるの?」


『知ってるよ。僕等は【力】を持つ者どうしの友達だもん。連れていってあげるよ! ……でも、あんまりお姉さんを責めないで』


男の子はそう語りかけて、私の手を引いて歩き出した。



 着いた場所は町外れの森だった。その奥深くに泥棒の家はあった。なにやら子供の騒ぎ声が聞こえる。


『ただいま!』


 今の言葉は家の住人に伝えたものだったらしい。一緒に住んでいるのだろうか。そして少年がそう言った直後、家のドアが開いた。


「遅いっ! レミ」


 現れたのは、財布を盗んだ女泥棒だった。後ろから沢山の子供が覗いている。


「レミ兄、お帰りー!」

「レミ兄、レミ兄!」

 どの子供も、このレミと呼ばれる男の子より年下のように見えた。


「あれ、あんた……」


 女泥棒は私がスリのカモだったことに気づいたらしい。ポケットから盗まれた私の財布をとりだし、ぽいと放り投げ、ドアをバタンとしめてしまった。唖然とする私に男の子は話しかけてきた。


『ごめんね、お姉ちゃん。でもホントは悪い人じゃないんだ。あのお姉さんは殺された魔女達の子供を引き取ってるんだ。魔女の子供は捨てられてしまうから……。そしてたった独りで育ててる』。

「え……!?」


 思わず財布を強く握りしめた。


『あのお姉さんも【力】を持ってるから。他人ごとには思えないって、前言ってた』

「……そう、なんだ」

『いつもはお姉さんが泥棒してても黙っているんだけどね。お姉ちゃん、思い詰めた顔してたから』


 男の子はクスリと笑った。


『ごめんね、お姉ちゃん。あの人の事は責めないでね』


 男の子はそう言い残し家の中へ入っていった。子供達の笑い声がきこえた。




 ラスツールに戻り宿をとり考えた。




 多数が少数を虐げる。この世界も私のいた世界も変わらないのね――。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ