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第5話 出航


 港町の喧騒。至る所に露天が立ち並び、魚や野菜を売り出す店主達の声が響いている。チェリカを連れたレイヴェニスタ軍はもう出発してしまっただろうか――。


 早くしなければ。裁判にかけられる前にチェリカを助けなければ。


 とりあえず軍がもう出発してしまったかどうか確認することにした。船着き場に行ってみると、数多くの船乗り達が慌ただしく動きまわっている。誰しもが忙しそうにしているので、声をかけるのがはばかられた。仕方がない。市場の方へ行ってみよう。


 市場にはやはり港町だからか海産物が目立ったが、野菜など畑から収穫されたものも数多くあった。


「この辺りは畑も多いんだな」


 目の前の野菜売りの店主に話を聞いてみることにした。売られているトマトを一つ買い、金を渡す。


「まいどあり!」

「オヤジさん、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「なんだい?」

「つい最近、軍が出航しなかったかい?」


 店主は禿あがった頭をかきながら答えた。


「あぁ……。昨日奴らは出航したよ。かわいそうに、女の子が捕まったようだよ」


 店主は心底気の毒そうにして俯いた。


「こいつはここだけの話だがね、あたしらも【力】の世話になってるからね。他人事には思えんよ」

「オヤジさん、【力】を持っているのかい?」


 店主は慌てて両手を振った。


「いやいや、あたしじゃあないんだがね。ここらの野菜売りはみんな【力】の恩恵にあずかっとるよ」


 何の【力】か分からないが、この港町で野菜売りをするために、きっと必要な【力】なのだろう。


「俺はその連れていかれた娘を追っているんだ」


 店主は目を丸くした。


「そうなのかい!? だったら次の便は夕方だ。それを逃したら明日までないぞ」


 店主は俺の手を引き寄せ、先ほど支払ったトマトの代金を手のひらに戻した。


「代金はいいよ。それより、昨日連れていかれた娘、助けてやってくれ。あたしらに【力】をかしてくれてる娘と歳はかわらないんだ。あんな娘が殺されるなんて間違っとるよ」


 そうだ。間違っている。ただ【力】を持っているだけで、その【力】を他人の為に使って殺されるなんて――。


 野菜売りの店主からもらったトマトをかじりながら、再び船着き場に戻る。相変わらず船乗り達はせわしなく動き回っている。この大陸は小さな大陸だが、唯一であるこの港には数多くの船舶が停泊していた。一体どの船が帝都のある大陸へ向かうのだろう。人々の波をかき分けながら目的の船を探す。


「聞いた方が早いか……」


 忙しい船乗り達に聞くのは気がひけるが――。ふと目線の先にチェリカくらいの歳と思われる少女がいた。少女は特に用があってここにいるわけではなく、ただブラブラと歩いているように見える。


「君」


 少女は振り向きにっこり笑った。


「何か?」

「この辺りに昨日レイヴェニスタ軍は来なかったかい?」

「え…?」

「知り合いが連れて行かれたんだ」

「知り合い…魔女なんですか?」


 おそるおそる少女は尋ねた。俺は頷いた。


「どの船に乗れば帝都まで行けるのか分かるかい?」

「レイヴェニスタ軍を追って、どうするんですか?」

「……助けなきゃいけない。あいつは、殺させない」


 少女はまたにっこりと微笑み、停泊している船の中の一番奥を指差して言った。


「あの一番奥の船が帝都のある大陸まで行く船です。魔女が一緒かどうかはみてないですけど、確かにレイヴェニスタ軍は昨日あの船に乗っていました。あの……!」


 少女は一瞬真剣な眼差しを向けた。そしてやはりまた微笑んだ。


「助けてあげて下さい、その人のこと」


 俺は返事をするかわりに力強く頷き、一番奥に停泊している船へと向かった。







 日が暮れ、出航の時間になった。海は穏やかで風も凪いでいる。


 夕日が沈む。

 間に合うだろうか。いや、間に合わせてみせる。




 チェリカ……。


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