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第4話 恵みの力


 港町シールス。心地よい海風が頬を撫でてゆく。イリアもここを通ったのだろうか……。


 私は家から持ってきた地図を広げた。

私のいた村から帝都に行くためには船に乗らなければいけない。必ず通っているはずだった。歩きながら手配書を見る。私のいた世界のイリアと変わらない。銀の髪も漆黒の瞳も。ただ表情だけがやけに悲しげにみえる。


「イリア、何があったの……」


 ふと耳に手を当てる。私は赤いピアスをしている。以前イリアに貰ったものだ。






「これやるよ、チェリカ」

「え?」

「今日誕生日だろ」

「あ……! 忘れてた」


 イリアは私の耳にピアスをつけてくれた。


「自分の誕生日忘れてんなよなー」


 イリアが耳元で笑う。


「ありがとう……イリア」






 あの時のイリアの笑った顔。私はイリアの笑った顔が好きなのに、この世界のイリアは笑ってないんだ。




「ん…?」


 考え事をしながら歩いていたらいつの間にか町外れまで来てしまったようだ。建物が少なくなり、畑が沢山ある。


「港町なのに作物育つのかな?」


 海風は作物に害ではないのだろうか。


「それにしても畑が多いな」


 辺りを見渡したその時、私は一つの影に気付いた。人がいる。畑の真ん中に女の子がいる。何をしているのだろう。私は思わず近くの物陰に隠れ、畑の真ん中に立つ少女を見つめた。


 距離はそれ程離れてはいないが、少女は全く気付く気配がない。少女は目を閉じ祈りを捧げるように手を合わせた。そしてゆっくりと目をあけ、畑の真ん中で踊り出した。


 畑の真ん中で踊る少女。それは不思議な光景だった。しかし本当に驚いたのは次の瞬間だった。


 何もなかった畑から作物が芽吹き始めたのだ。


「え……!?」


 作物は少女の踊りに合わせてどんどん成長している。言葉を失い立ちすくむ私はやっと気づいた。これは、あの子の【力】。植物を成長させる【力】なのだという事に。


 気付いた瞬間、立ちすくむ私とその少女の目があった。


「あ……!」


 少女は慌てて顔を隠し、その場から逃げ出そうとした。


「待って! 逃げないで!」


 少女はびくりとして足を止めた。おそるおそるこちらを振り向く。


「今見ましたか……?」


 少女はおずおずと尋ねた。


「ええ……。作物が――」


 少女がこちらへ走ってくる。そして私の前で跪き懇願した。


「お願いします! 今の私の【力】のこと……誰にも言わないで! お願い……!」

「私、言わないわ。ただ聞きたいことがあるの」

「え……?」


 少女はあからさまに驚いた顔をしている。やはりこの世界は【力】は禁忌とするものなのだ。もし【力】を持つ者であることが知れれば、帝都へと連行され、裁判にかけられる。この世界の私のように――。


「一ヶ月前位に、レイヴェニスタ軍が魔女を連れて来なかったかしら? 私の知り合いなの」

「知り合い……!」

「そうなの。もし見かけたのなら教えてほしいんだけれど」


 少女は俯き答えた。


「軍隊は、来ていました。魔女がいたかどうかはわからないけど……。でもきっといたんだと思います。でなければ、こんな所にレイヴェニスタ軍なんかくるはずありませんので」

「そう……」


 やっぱり、帝都に行くためにはこの航路を行くしかないんだ。そうと分かれば船に乗らなければ!


「ありがとう」


 礼を言い去ろうとすると、それまで俯いていた少女が顔をあげた。


「あの……!」

「安心して。私は誰にも言わないわ」


 少女はくびを振った。そして続けた。


「私、同じことを一ヶ月前にも聞かれました。銀髪の男の人に」

「!」


 それはきっとイリアだ! やっぱりイリアもここを通ったのね。


「その人は、助けなきゃいけないって、言ってました。軍が乗った船が出た次の日だったんですけど。間に合ったのかどうか……」




 イリア……!

 本当に私を追ってくれているんだ。




 少女は不安げなまなざしをこちらに向けている。


「大丈夫。絶対言わないわ。信じて。だって私も――【力】を持っているから」

 少女は目を丸くした。


「私は一ヶ月連れていかれた魔女と同じ【力】を持ってるの」


 そう言って私は船着き場まで急いだ。




 向かうは帝都のある大陸。そして全ての謎を解かなければ――。




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