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第10話 教え


 リマオを出て次に着いた町は大きな聖堂のある町だった。昼過ぎに出発し夜も更けてしまっていた為、そのまま宿へと向かった。部屋の窓からは、大聖堂を眺める事が出来た。大聖堂のあるこの町はミュラシアという町で、数多くの聖職者と巡礼者達が訪れる聖地である。


 この世界に来てから、人々にイリアの行方を聞く同時に、この世界の情報を得ることが出来て知ったことだが、この世界の人々はある宗教を信仰しており、その教えの中に【力】を持つ者は神の【力】を奪った者であると、邪悪な存在としてあったのだ。そしてその教えが、今のこの魔女への迫害に繋がっていたのだった。


 もちろん、それはこの世界でのみの話だ。私のいた世界はこの世界とは逆なのだから。この世界のように深く信仰するもののない私のいた世界は、【力】を持たない者は、仲間外れ的な要素で迫害されていたのだ。 


 私はベッドに横になった。【力】を持つ者と持たない者、それぞれの数は私のいた世界とこの世界で正反対なのに、何も変わらない。多数が少数を虐げている。この世界にいたっては少数を捕らえ処刑までしている有り様だ。


 私は急に悲しくなった。私とイリアはお互い【力】を持つ者と持たない者でも、こうしてお互い思いあえるのに。どうしてダメなんだろう。どうしてこんな事になってしまっているんだろう。明日はあの聖堂に行ってみよう、そう考えながら私は眠りについた。




 

 目が覚めた私は聖堂へと向かった。宿から見えた聖堂は間近で見ると、特に何の信仰心を持っていない私でも、その荘厳さ、そして美しさに声が出ないほど大きく素晴らしかった。


 立ち尽くし眺めていると、聖堂の扉が開き中から杖をついた女性が出てきた。盲目なのだろうか、目を閉じ手に持つ杖で足元を確認しながら歩いていた。そして肩までの長さの明るい茶色の髪をなびかせ横を通り過ぎて行った。


 私は扉を開き中へと入った。響き渡る賛美歌、そして色とりどりのステンドグラスから差し込む光が幻想的な雰囲気を醸し出していた。朝の祈りを捧げているのか私の他にも数人が聖堂内にいた。市場で働く店主のような中年、家事の合間に着たような子供連れの母親、巡礼者なのだろうか、黒いフードつきのマントを着た男、皆下を向き手を合わせながら何かを懸命に祈っていた。


 その中私は前へと進み、中央の祭壇で絶えず微笑みを浮かべながら朝の祈りを捧げに来た人々を見守っていた神父に声をかけた。


「神父様、おはようございます」


 神父は私にも優しく微笑みかけた。


「おはようございます。どうされましたか?」

「あの、私、神父様にお話を伺いたいんですけど……」

「何でしょう?私に答えらる事でしたらお答えしますよ」


 私はこの世界で信仰されている宗教について尋ねる事にした。この宗教の成り立ち、今のこの現状、そしてなぜ魔女が殺されるのかを。神父は困惑の色を浮かべたが、ゆっくりと、私が尋ねた事について語り始めた。


「遥か昔、【力】を持つ者と持たざる者の数は同数だったといいます。しかし前者は【力】を使い、後者を支配し始めました。そんな時後者の中に突然【力】が目覚めたある若者がいたのです。

 それは凶悪な破壊の【力】でした。若者はその【力】をもって後者達を率いて戦い時の皇帝を倒しました。【力】を持つ者と持たざる者の立場は逆転し、若者は英雄となったのです。

 しかし若者に突然目覚めた凶悪な【力】は徐々にに大きくなり、若者は制御出来なくなってしまいました。結局その若者は共に蜂起し戦った者達に殺されてしまいました。ただ、若者は最期に言葉を残しました。“【力】を持つ者はいずれ世界を滅ぼす。神から奪った【力】は使ってはいけなかったんだ……”と。

 【力】を持たざる者達は、かつて英雄だったその若者の言葉を“【力】を持つ者は殺さなければいけない”と解釈しました。そして【力】を持つ者達は殺されていきました。多くの人々が……。これが成り立ちと今のこの現状、そして【力】を持つ者達が殺される理由です。分かっていただけましたか?」

「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 私は慌てて首を振った。


「そんな事って……」

「今私達がこうしていられるのは、当時突然【力】が目覚めてしまった若者のおかげです。しかし、私達の祖先は彼を殺してしまいました。その罪悪感から逃れる為に、【力】を持つ者は殺さなければいけなかった、そう考えるようになったのでしょう。そしてその考えがこの宗教の教えの基盤となったのでしょうね」

「そんな……!」


 そして神父は真顔でこう続けた。


「皇帝陛下は一カ月前に殺害されました。この事にあなたは何か感じませんか?」

「え……?」

「突如【力】に目覚め、結局殺された若者、彼が残した言葉は、まさに今この時の事なのだと私は考えています。今この大陸は混乱しています。徐々に他の大陸にも波紋は広がるでしょう。滅びの時は刻々と近づいているのですよ」



 どれほど時間がたったのか、いつの間にか聖堂内で祈る人々の顔ぶれは全てかわってしまっていた。神父に礼を言い外へ出る。


 滅びの時――……。

 本当に今がその時なんだろうか。


「イリア、どうして……」


 考えてても仕方ない。やっぱりイリアに会わなければ。



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