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第1話 始まり


 ……誰か……


 お願いします……


 あの人を……


 ……助けて……







「……またこの夢」


 鳥の鳴き声で目覚めたいつもの朝。いつもの景色。いつもと同じ夢。体が汗でべとつき気持ちが悪い。額に浮かんでいた汗を手の甲で拭う。それにしてもあの夢――何故か不安に駆られる、誰かを呼ぶ声。


 私は最近毎日の様に同じ夢を見ていた。それは、ただ誰かがかすかに呼ぶ声が聞こえるだけの、目の覚める寸前に見る短い夢だった。何故毎日同じ夢を見るのか理由は分からない。


「一体、何なんだろう」


 窓からそよ風が入りカーテンが靡いた。汗をかいた体に心地よい。私はベッドからおり、汗に汚れた服を着替えた。ベッド脇にある姿見を見ながら、生まれつき軽くウェーブのかかっている金髪を後ろで一つに結わえた。背中の真ん中辺りまで伸びた髪の毛を見て、伸びたな、と思った。その時、激しく家のドアが叩かれた。


「チェリカ!」


 ドンドン、ドンドンドンドン。


「チェリカ! 起きてくれ、頼みがあるんだ!」


 ドアを叩く音と私の名前を呼ぶ声が響いた。慌てて玄関へと向かい、激しく叩かれているドアを開けた。


「朝早くに、悪い」


 扉の外には、息を切らし汗を流す男がいた。銀の髪、漆黒の瞳をもつその男は私の友人、イリア・フェイトだった。


「どうしたの? もしかしてまたユナ……」

「そう、なんだ。また、発作が」


 ユナとはイリアの妹のことだ。兄と同じ髪と瞳の色をした病弱な子。息をきらしながらの説明は要領を得ない。


「とにかく、来てくれ!」


 イリアはまだ息をきらしたままだったが、私の手をひいて走り出した。走りながら私は詳しい事情を聴いた。


「昨日から熱をだしてたんだ。少し前から咳をしだして、発作を起こしかけてる。お前の【力】が必要なんだ」

「分かったわ!」


 踏み出す足に力が入る。ユナを助けなければ!


 村の外れにあるイリアの家は遠い。私より頭一つ分は背の高いイリアの走るスピードに合わせ、何度も躓きかけて、そのたび態勢を直すのに苦労した。




 イリアに手をひかれたまま家に到着し、真っ先にユナの部屋に入る。ユナは苦しそうに咳き込みながら、目に涙を浮かべていた。顔色は、熱があるせいかほんのり赤く、目は充血していた。


「チェリカお姉ちゃん……」

「ユナ、大丈夫? 今治してあげるからね……」


 ユナの額に自分の手をあてる。随分と熱が高い。額に当てた手からユナの高すぎる体温が伝わってきた。私は額に当てた手に【力】を込めた。ユナの咳が止み、みるみるうちに顔色が戻った。――そう、これが私の【力】。







 

 この世界には2つの人種がいる。不思議な【力】を持つ者と持たざる者。だが後者の数は前者よりも圧倒的に少ない。その事がこの世界に悲劇をもたらしていた。【力】を持つ者の、【力】を持たざる者への迫害。世界には【力】を持たなかったばかりに、生まれた場所を追われ、隠れ住む者がいるのだ。そして彼、イリアもそんな者達のひとりだった。


「ごめんなチェリカ。俺が力を持ってないばかりに……」

「いいんだよ、イリア。私の【力】はこういう時の為にあるんだから!」


 私はなるべく明るく言った。イリアは以前住んでいた街で迫害され、私の住むこの村に移り住んできた。しかし実際村の集落からは離れた小高い丘の上に彼らは住んでいる。【力】を持たない彼は、人と関わることを嫌っているのだ。だからといって彼は別に偏屈な男、というわけではない。おそらく【力】を持つ人々から迫害された日々が彼に暗い影を落としているのだろう。


「俺にも【力】があったらな……」


 イリアの口癖だ。そして私もいつものように聞こえないフリをした。




 イリアに途中まで送られ家路につく。いつもの道。でも何かが違う。何かが聞こえる。


「声……夢と同じ――」


 そう、あの声だ。はっきり声がきこえた。助けを求める声。夢と同じ声。この声は――……。






 私――。

  




 その瞬間目の前が暗くなった。

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