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ラストメモリー  作者: 黄昏アオ
残り3ヶ月
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怪物に食らわれる

 永遠は館を出た。相変わらず外はどんよりとしていて、いつ雨粒が落ちてきても不思議はない。


 だけど今の気分にはぴったりだわ。

 

 普段ならばきっと愛でていただろうが転々とついた赤い薔薇のつぼみにも心惹かれなかった。


 赤い色…。


 遠くに目をやると暗い森の入り口が見えた。引き寄せられるように永遠はその入り口目指して歩いていった。

 五分くらい歩くと大きく口を開いた場所に着き、ためらうことなく中に足を踏み入れた。中は暗くじめっとしていた。運悪く迷い込んだ者を飲み込んで、決して逃がすまいとする怪物のようだ。


 だがそれでもかまわなかった。二度とここから出られなくてもかまわない。


 ただ単調に歩き続けているとエリカの言葉がよみがえってくる。とはいえ実際は聞いてから一度も消えることはなく、うるさいハエのように永遠の心にまとわりついていた。


 『あんたなんてただの遊び相手よ、それも一時だけの。あたしはクリスチャンの婚約者よ、彼から聞いてるでしょうけど』


 永遠はエリカの言葉に一つづつ答えていった。


 ええ、そうよ。私が取引を持ちかけ、彼はそれにのっただけ。

 その通りよ。私は三ヶ月しか彼といられない。

 いいえ、それは聞いてない。彼はヴァンパイアについては話してくれたけど、自分のことは語らなかった。私は彼が結婚しているのかとも聞かなかったし、付き合っている人がいるのかとも聞かなかった。そして彼も言わなかった。

 私に告げる必要がないから。


 私はただの…ただの何? 都合のいい女? 栄養源?


 考えているうちに開けたところに出た。周りを木々に囲まれたそれほど大きくない湖があって、近くには小さな小屋が建っていた。

 湖を覗き込むと、透き通った湖面に自分が写った。


 鎖骨ほどの長さの黒くて少し波打った髪。白くて少し面長な輪郭。口も鼻も整ってはいるが、特に人目を引くほどではない。目は長いまつげに縁取られて黒く大きく、深い悲しみを湛えていた。

 湖面から目を離し座り込んだ。自分の腕でひざを抱え、前後に小さく体を揺する。


 エリカの言葉は正しかった。だからこそ胸が痛んだ。


 喉の奥から小さな声が漏れたとき、背後に視線を感じた。


 振り向いたが何も見えなかった。

 だが音が聞こえた。小枝が折れる音と木の葉がこすれる音。そして獣のうなり声が。

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