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ラストメモリー  作者: 黄昏アオ
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恋敵現る

 永遠は、染めたものだとわかる真っ赤な髪と豊かな胸を揺らしてカーテン室に入ってくる女性を見つめた。

 「クリスチャン!」

 女性は永遠には目もくれず、彼の方へ歩いていくと大きな声で彼の名を呼び抱きついた。


 ここが舞台だとでも思っているような大きな声ね、おまけに大きな胸も押し付けて。永遠は苦々しく思った。


 クリスチャンは体をこわばらせたまま女性を押しやった。

「エリカ、ここで何をしている」


 エリカは真っ赤な長い髪を振り払い頬を膨らませた。

「婚約者に対してその態度は何?」

エリカは胸の下で腕を組んだ。その効果も計算済みで。


 「ここで何をしているのかと聞いているのだ」


 永遠は黙ったまま、にらみ合った二人を見つめていた。クリスチャンがエリカの胸に目を向けないことが嬉しかった。


 だがエリカは気に入らないようだった。

「あなたに会いに来たんじゃないの。昨日は帰ってこなかったのね、この女と一緒だったの?」

 エリカの見下すような視線が永遠に突き刺さった。


 エリカは彼以外にも人がいることに気づいていたのね。

「ええ、そうよ」

永遠はお返しに冷ややかな目でエリカを見やった。


 エリカは鼻をうごめかせると、冷たい笑みを浮かべた。

「あんたなんてただの遊び相手よ、それも一時だけの。あたしはクリスチャンの婚約者よ、彼から聞いてるでしょうけど」



 永遠は目を見開き突っ立っていた。彼女の瞳には見た者に慰めてやらなければと思わせる痛ましさが宿っていた。


 クリスチャンは彼女を自分の後ろにそっと押しやってエリカの視線を遮った。そうしてエリカに強い口調で言った。

「やめろ! 用がないなら出て行け」


 だがエリカは不敵な笑みを浮かべ動く気はなさそうだ。


 代わりに永遠がクリスチャンの横をすり抜けた。彼が永遠の手を掴んで引きとめようとすると、彼女は小さな声で言った。

「少し外に出たいの」


 クリスチャンは気に食わなかった。

 外は危険だ。だがエリカの毒牙は届かない。


「遠くに行ってはいけない。それから気を付けるんだ」


 永遠は何も言わず静かに部屋を後にした。


 永遠が部屋から出て行くと、エリカが近づいてきた。

「あなたがこのいけ好かない館にこもるのを止めたのはあの人間が理由? それもただの人間じゃない、死にかけの人間」


 ヴァンパイアは人間よりも身体能力が高い。さらにヴァンパイアは一人ひとり特別な能力を持っている。たとえば彼はほかのヴァンパイアより素早く動くことができたし、エリカはほかより鼻が利いた。

 だからエリカが永遠の病を嗅ぎつけても不思議はなかった。

「君にとやかく言われる筋合いはない。さっさとこのいけ好かない館に来たわけを話せ」


 エリカはクリスチャンの皮肉を解さなかった。

「あなたもいけ好かないと思ってるんじゃない。あたしはあなたに会いに来たと言ったでしょう。あなたのお母様に様子を見るよう頼まれたのよ」


 クリスチャンはうめき声を上げた。


 母はいつまでたっても伴侶を見つけようとしない彼に、相手を見つけようと躍起になっていた。

「もう見ただろう。母上には元気だと伝えてくれ」


 エリカが鼻をうごめかせると口がぴくっとした。クリスチャンは、これが何か、大抵はよくないことを嗅ぎつけたときのエリカの癖だと知っていた。

「何を嗅いだ?」


 エリカの顔に悪魔的な表情が広がった。


「あの女、思ったよりも早くお迎えが来たようね」

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