棘が刺す
目を覚ますとベッドに一人きりだった。隣に手を伸ばし、シーツに触れた。
冷たい…。ずっと前に目を覚ましたのね。私も起こしてくれればいいのに。
永遠は彼のいない冷たいベッドで、少しでも温もりを得ようと毛布に包まり膝を抱えた。
昨夜、彼は私を愛していると言葉にこそしなかったが、そう言ったも同然だった。だが皮肉にも、彼は愛なんて大したものではないと言う。愛という感情を持ってはいても、その存在の価値を見出すことが出来ないようだ。
それは過去の経験のせい?ジョセフィーヌを愛していたのに、彼女はクリスチャンを真に愛していなかったから?だが彼は、ジョセフィーヌに自分がヴァンパイアであることを隠していた。あの時代ではヴァンパイアは忌み嫌われる存在だった。
私だってこの命の終わりを知っていなければ、彼に心を許そうとしただろうか?彼がヴァンパイアであるというだけで、どんなに優しい人かということも知らないで彼を恐れたのでは?それこそ彼の心を頑なにさせた原因ではないの?狩るものと狩られるもの、立場の違いが彼を苦しめているのではないの?
私はクリスチャンを愛している。嘘偽りなく、何の曇りもなく彼を愛している。
まだ口にしたことはないけれど、この気持ちを彼に伝えよう。
彼のためなら残り少ないこの命さえ、躊躇いなく投げ出せる。彼は嫌がるだろうけど。
きっと彼は愛することの意味をわかってくれるはず。
「グー」
もうひとつのベッドにはブリスが大の字になって眠っていた。窓に目をやると外はまだ薄暗い。
視界の隅に赤いものが映った。
昨夜、脱いだままだったはずのドレスがきちんと畳まれて窓際のテーブルに載せられ、その上に一輪の赤い薔薇が置かれていた。
クリスチャンかしら?
背の高いベッドから飛び降り、薔薇に手を伸ばした。
「っ!」
鮮血が噴き出した指を口に入れる。
カーペットに落とした薔薇を見ると棘がびっしりとついていた。まがまがしいそれは次の獲物を狙っているようにも見える。
クリスチャンが置いたんじゃないわ。
目を薔薇が置かれていた場所に転じると、さっきは薔薇に隠れていて見えなかったがカードがあった。
恐る恐る指先でカードを持ち上げ、開く。
クリスチャンからの贈り物ではないという確信が強まった。
『クリスチャンに近づくな。さもなくば殺す』
赤い、ともすれば血と見まがうような赤い字でそう書かれていた。
部屋の扉が開いて、慌てて振り向きカードを後ろに隠した。




