アダムの一声
しばらく三人で固まっていると、アダムに声をかけられた。
「クリスチャン、そろそろ始めようか」
「はい」
アダムは一息つくと、ホールによく響く声で告げた。
「皆さん、我が息子クリスチャン・ベルナールと麗しい未来の花嫁にご注目下さい」
アダムはさあと目顔で前に出るように知らせた。
何が始まるのかしら?
人事のように思考を巡らせていると、クリスチャンに手を引かれ招待客の中心に進み出た。
「音楽を!」
アダムの声の残響の中、ヴァンパイアの楽団によってゆったりとした音楽が奏でられる。
クリスチャンの右腕が腰にまわされた。
ぎょっとして永遠は目を見開いた。
まさか…。無理よ、出来っこないわ。
「クリスチャン、私にダンスを踊れなんて言わないわよね…?」
揺るぎ無い金の瞳に見下ろされる。
「言わない。わたしがリードするから、君はただ流れに身を任せていればいい」
嫌々というように永遠は頭を振ったが、無常にもクリスチャンが動き始めた。
クリスチャンの言ったとおり、彼の動きに合わせて永遠の身体も自然に動いた。
ダンス経験など皆無の永遠にも、クリスチャンがすばらしく優雅な踊り手であることはわかった。
クリスチャンにくるりと回され、永遠は楽しそうに笑いかけた。
クリスチャンに引き寄せられ、周りを見てごらんと言われた永遠は目を瞬いた。彼だけに意識を向けていて気が付かなかったが、ペアになった男女がホール中で身体を揺らしていた。
初めは戸惑っていた永遠も曲を変え、相手を変えて踊るうちにくつろぎ、心から楽しみながらホールを移動していた。




