いざ行かん、スコットランド
「スコットランドだ」
「スコットランド!」
彼女の瞳が大きく見開かれた。
「スコットランドってあのスコットランド? イギリスの上の方にある?」
しどろもどろな彼女が愛らしく、彼女がスコットランドを知っていることが嬉しかった。クリスチャンにとってスコットランドは特別だった。
「ああ、そのスコットランドだ」
「だけど…しばらく外に出てくるだけだって言ったじゃない。私は一時間もかからない場所に住んでいるのだとばかり。いくらあなたが永遠の命を持っているからって、飛行機で何時間もかかる外出を散歩か何かのように言うなんて。あなたは遠く離れた場所に行くことをいつもそんなふうに言うの?」
人間には驚いたり緊張したときに、黙り込む者と口数が多くなる者がいる。
どうやら彼女は後者らしい。
「ああ、そうだ」
次の言葉を紡ぎ出せず口を開いたり閉じたりしている彼女の様子がおかしくて、クリスチャンはもうしばらくこのままにしておこうかとも思った。
「一緒に行きたいか?」
「だけどパスポートが無いわ」
彼女は手で触れられそうなほどがっかりした雰囲気をまとっていた。
欲しくてたまらない玩具が、ほんの少し金が足りなくて買えなかった子どものようだ。
「パスポートは必要ない。空を飛んでいく」
「空を飛ぶ? 確かにあなたはとても早く動けるとは聞いたけど、空を飛べるなんて言わなかったじゃない」
「怖いのか?」
「怖くなんか無いわ!」
返事が早すぎた。
だからクリスチャンは安心させるために言わずもがななことを言った。
「落としはしない。わたしがしっかりと君を抱いているから」
彼女はしばらく黙りこくっていたが、クリスチャンに近づくと手を差し伸べた。
「私も連れて行って」
クリスチャンは彼女に微笑みかけると、その昔宮廷でしていた優雅なお辞儀をした。
「仰せの通りに」