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ラストメモリー  作者: 黄昏アオ
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シチューと講義

 クリスチャンは目の前に座りスプーンを口に運ぶ彼女を見ていた。艶やかな黒髪が彼女の色白の顔に影を落としている。それが一層彼女にはかなげな美しさを添えていた。

 クリスチャンの前では白い湯気をくねらせて、シチューが口に運ばれるのを今か今かと待っている。


 彼女といると自分が間抜けのような気持ちになる。まるで初めて恋をして、女の子にどう接したらいいのかわからない少年のようだ。


 彼女に心を許すまいと誓ったのに、もう惹かれはじめている。


クリスチャンの表情を誤解した彼女が、眉をひそめスプーンを置いた。

「ごめんなさい。その、あなたには血の方が」

 彼女が髪を後ろに払うと、白い首がクリスチャンを誘った。


「昨日も言ったが、君はヴァンパイアについて学ぶ必要がある。わたしはふつうにものを食べられる、確かに血の方が好ましいが。昨日君の血を頂いたから当分は無くても平気だ」


証明するために一口シチューをすすった。


 クリスチャンの言葉に彼女の目は驚きに見開かれ、彼のシチューに対する賞賛には輝いた。

 それからしばらくクリスチャンはヴァンパイアについて話して聞かせた。彼女が熱心に耳を傾ける様子は微笑ましく、クリスチャンの講義にも熱が入った。

 クリスチャンが二度おかわりをし、二人がシチューをきれいに平らげたころには、彼女はヴァンパイアを除けば誰よりもヴァンパイアについて詳しくなっていた。


 

 食器を片付け終えると手持ち無沙汰になった。

 昨夜は彼の腕で眠ったというのに、二人きりでいるのが強く意識される。

 強い視線に振り返ると彼は昨夜と同じソファで、同じようにくつろいでいた。


 あんな風に見つめるのをやめてくれればいいのに。


 永遠はほかにすることはないかと周りを見回したが、部屋は片付いている。そもそも物の少ない部屋は散らかりようが無かった。そわそわとすでに何度も拭いているテーブルを拭きなおした。


 「落ち着かないのだろう?君はもう休むといい。わたしはしばらく出ているから」


 確かに落ち着かなかった。だが彼に出て行って欲しいとも思わない。


「いいえ、そんな必要は無いわ」


 彼は音も立てず優雅に立ち上がると言った。

「少し必要なものがあるのでね」


 永遠は慌てて言った。

「血なら私から摂ればいいでしょう」


彼はポケットに手を突っ込み、肩をすくめた。

「血は足りている。住処へ行って予備のカーテンを取ってくるだけだ。君のバスタブはわたしには窮屈すぎるのでね」


 永遠は食い下がった。

「カーテンなら家にだってたくさんあるじゃない」


 「だが、遮光カーテンではない」

 彼は辛抱強く続けた。


 永遠は彼を見つめた。くつろいだ様子で立っていても、彼はどこか人離れした雰囲気をまとっている。


 遮光カーテン。


 だから彼はバスタブで身を縮めて眠っていたのだ。まわりに窓の無いバスタブならずる賢い太陽も彼に手出し出来ない。


「ごめんなさい、うるさく言って。うんざりしたでしょう」


 彼は永遠が“ヴァンパイアの笑み”と密かに呼んでいる、片方の口角だけを上げる歪んだ笑みを浮かべた。

「いや、気にしなくていい。だがわたしが自惚れた男なら、君が嫉妬しているのではないかと思うところだ」


 彼の言葉にどきっとした。


 私は嫉妬していたの?

 彼のことをほとんど知りもしないのに。だが彼が自分以外の誰かから血を摂ると思うと…。


 これ以上考えたくなくて永遠は急いで話をそらせた。


「そういえば住処って、あなたどこに住んでるの?」


 そんな考えなどお見通しだというように彼の瞳が煌いた。

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