握られた想い
翌日にはまだ熱はあるものの表面上はずっと元気を取り戻したように見えた。
部屋には太陽が取り込まれ、明るい雰囲気が漂っていた。
「ねぇブリス、お願いがあるんだけど」
クリスチャンが身を乗り出す。
「君の願いならわたしが叶えてやる」
永遠の笑い声が響いた。
「いいえ、あなたよりブリスの方が近いもの。ブリス、窓を開けて欲しいの」
窓際に立っていたブリスは鍵を外した。
「永遠、君はまだ治ったわけじゃないんだぞ。また熱が上がったらどうする」
「だけどクリスチャン、私、今日はお散歩に行けないのよ。せめて外の空気を吸いたいの」
窓から冷たい風が舞いこんできた。
「寒くはないか?」
「いいえ、十分に温かいわ」
永遠は窓の外を見た。
クリスチャンはその様子を見ながら咳払いをして言った。
「今度からはわたしも君の散歩に付き合う」
「どうして?」
「君と同じ時間を過ごしたいからだ」
永遠は振り向いてクリスの表情を窺った。偽りを見抜くのは得意だ。今までずっと人の顔色を窺って生きてきたのだから。
首をかしげて見つめ、しばらくしてから微笑を浮かべた。
「いいわ。じゃあ早く元気にならなくちゃ」
「俺も永遠と一緒にいたい」
後ろでブリスが呟くのが聞こえた。今度はブリスの方を向く。
「もちろんあなたも、私に付き合ってくれるでしょう?」
ブリスの表情が明るくなる。
「いいのか?だって俺ウェアウルフだし、目、気持ち悪いし…」
「もうその話は済んだと思っていたわ。私はあなたが何であろうと気にしないし、あなたの美しい目が好きよ」
太陽が翳った。ブリスの満面の笑みには敵わないと、雲の後ろに身を隠したかのように。
「そういえばクリスチャン、ブリスに服を貸してくれたのね」
永遠は何気なくベッドにあったクリスチャンの手を取り、ブリスを眺めた。
「良く似合ってるわ。サイズもほとんど同じなのね」
クリスチャンは握られた手を見下ろし、ためらいながらそっと握り返した。
「こんなの俺の趣味じゃないね。真っ黒で陰気くさいし、いかにもヴァンアイアって感じだ」
ブリスが落ちつかなげに袖を引っ張る様子は微笑ましかった。
なぜなら、永遠にはそのつっけんどんな言葉も照れ隠しだとわかっていたし、見れていないと思ってそっと生地を撫でる手つきからも、本当は喜んでいるのだとわかったから。
「うーん、いかにも兄弟って感じかしら」
「何を言う!」
「何言ってんだ!」
同時に答えた二人に永遠は眉を上げ、二人が睨み合うのを傍観した。
ブリスの視線が握り合わされた手に落ちる。
「おい、何、永遠の手握ってんだよ」
永遠は目をぐるりと回した。
窓からは湿った秋の香りが迷い込んでいた。




