休戦協定
クリスチャンは椅子に腰掛け、もう一度タオルを変えた。
ブリスはベッドの向かい側に椅子を持ってきて座った。
二人は黙って永遠を見つめた。
「食わないか?」
クリスチャンはほんの少ししか減らなかった皿をサイドテーブルから取り上げた。
「あんたの作ったもんは願い下げだっつってんだろ」
クリスチャンはヴァンパイアの笑みを浮かべた。
「永遠の食べかけが嫌なら、キッチンにいくらでも新鮮な桃が転がっているぞ」
それはクリスチャンの精一杯の休戦協定だった。
「嫌味な野郎だな。あんた自分でわかってんだろ」
クリスチャンは皿から桃を一切れつまみ口に入れた。ゆっくりと噛み締め、甘い果実を味わう。
「もっと小さく切り分ければ良かった。わたしも気が利かないな」
ブリスはその様子をしばらく眺めてから言った。
「ヴァンパイアってみんな陰気なの、それともあんただけ?」
クリスチャンは桃をつついた。
「どうだろうな。わたしにもわからない」
クリスチャンは一瞬ブリスを捉え、目を背けた。
「永遠は、何か言っていたか…?」
「何かって?」
クリスチャンは意味もなく桃を並べ替えた。
「…わたしのことなど」
ブリスは頭の後ろで腕を組んだ。
「あんたに教える義理があるか?」
クリスチャンは口元を引き締めた。
ブリスはため息をついた。
「でもまぁ、砂時計はよく眺めてたぜ」
それが必ずしも贈り物を喜んでいたということにはならない。ただ残された時に思いを馳せていただけかもしれない。それでもクリスチャンは望みを捨て切れなかった。それが彼女との唯一の繫がりかもしれないのだから。
「そうか」
ブリスは椅子の前脚を浮かせ後ろ脚だけでバランスを取った。
「俺もあんたに聞きたいことがある。あの日、何で俺を助けたんだ?あんたは俺がウェアウルフだってわかってた」
「わたしではない、助けたのは永遠だ。あの時、もしわたしが手を貸さなかったとしても彼女は一人でお前を救っただろう。わたしは彼女のためにしたのだ」
「なら俺も永遠のために言う」
ブリスは椅子の脚を四本とも床につけ、身を乗り出した。
「永遠は自分がここにいない方がいいのかもしれないって言ってた」
クリスチャンは目を見開いた。
「そんなことはない!わたしは…」
ブリスが片手を上げた。
「俺に言ってもしゃーねーだろ。最後まで聞けって。で、あんた、そんなこと思わせるようなどんなことを言ったんだ?」




