秘められた口づけ
クリスチャンが必要なものを手に部屋へ戻ると、ブリスはただ永遠の傍に立って彼女を見下ろしていた。
クリスチャンに気づくとその表情は消えたが、その前にクリスチャンはすでに目にしていた。大切なものが傷つくことの苦痛の表情を。自分の痛みには耐えられても、相手のそれは耐え難い。
敢えてクリスチャンは何も言わなかった。彼自身も馴染み深いそれに見合う言葉など、到底在りはしない。ただ腕にかけた自身のシャツとズボンをブリスに投げた。
「着ろ。いつまでもそのままでうろつかれると目障りだ」
服を受け止めたブリスは腰にタオルを巻いただけの自分を見下ろした。
「実は興奮してたりして。本当はあんた、男が好きなんじゃねーの?」
クリスチャンは鼻を鳴らした。
「堪らないね」
ブリスはにやっとして、タオルを落とし服を着込んだ。自分の表情を見られていなかったことを安堵しながら。
クリスチャンは気にも留めず永遠の傍に腰を下ろし、彼女を見つめていた。また熱が上がったようだ。頬が赤く、息をするのも苦しそうだ。額のタオルは永遠の熱を吸い、温くなっていた。
桶の冷たい水で清めなおしタオルを額に戻す。
「永遠」
そっと呼びかける。だが反応はない。
指先で熱い頬をなぞり、この熱を吸い取ってやれたらと願う。
「永遠、桃を買ってきたのだ。一口だけでも食べられないか?そうすれば薬を飲んで、君を苦しめる風邪を治せる」
皿に盛った桃の一切れを永遠の唇にあてがう。桃の果汁が彼女の唇を濡らした。
すでにブリスは着替え終え、ベッドの脇に膝をついて永遠を見守っている。
永遠の赤い舌先が口の間から覗き、唇についた果汁をそっと舐めた。
「おいしい…」
永遠の口からこぼれた言葉に二人は顔をほころばせた。
その唇にそっと桃を押し当てたが、永遠は舐めることはすれど実をかじることはない。
咀嚼するだけの体力もないのか。クリスチャンはいぶかった。
クリスチャンはその実を小さくかじった。そして唇を永遠のそれに重ね、実を彼女に譲った。頭の傍でブリスの騒ぐ声が聞こえる。唇を離した後も額と額を合わせ、飲み込めと念じる。
ゆっくりと喉が動くさまに目頭が熱くなった。
永遠の熱に浮かされてどんよりとした目が開く。
「…うつっちゃう」
「心配しなくていい、わたしはヴァンパイアだぞ。人間の病には罹らない。それよりもう少しだけ起きていられるか?薬を飲むのだ。そうすればすぐ楽になる」
永遠のまぶたが落ちかけた。
クリスチャンは慌てながらもゆっくりと永遠を起こすと、肩を支え薬を飲ませた。
永遠はたったそれだけの行為でぐったりとベッドに身を沈めた。




