ぬくもりに包まれる
美しい。この一言に尽きる男が永遠を見ていた。
その目はグリーンとゴールドで、ドラマッチックに一房額に垂れかかるカールした髪はシルバーだ。だが一般に思われるような老けた印象は受けず、この男にはとても似合っていた。
クリスチャンをモデルと例えるなら、この男はギリシア彫刻だ。完璧に整った顔立ちは神の創造した最高傑作。
しかし男は裸だった。
慌てて目を逸らし、ショールを投げる。
「これを巻いて!」
後ろでさらさらとした音と、そんなに怒らなくてもとつぶやく声が聞こえた。頃合を見計らって後ろに目をさっとやると、男は背が高く、ショールは必要な部分を辛うじて隠しているだけだった。
改めて男を眺めた。つくづく美しい男だ。罪深いほどに。不揃いの目もやはり彼の美しさに神々しさを添えるばかりだ。
「俺は気持ち悪いか?」
男の声に我に返った。ボーっと惚けたように男を見つめていたことに気づいて頬を染めた。だから男の言葉が頭に沁み込むまでに時間がかかった。
「なんですって?」
「俺はおまえを気持ち悪くさせんのかって聞いたんだ」
男は眉を寄せ不安そうだ。
この男には目がないの?これほど美しいものなどいないだろうに。
目。そこで気がついた。
「あなた、ブリスと同じ目だわ!」
あたりを見回す前から結果は解っていた。
ブリスはいなくなっていた。
「信じられない!あなたブリスなのね?」
「あぁ」
ブリスが悲しそうに件の目を逸らす。
永遠はブリスの手を掴んだ。
「本当に自分が気持ち悪いと思っているの?あなたほど美しいものを見たのは初めてよ。特にその幸運の瞳が。あなたが狼のときにも言わなかった?」
美しい瞳がこちらに向けられた。
「本当に?俺は美しいのか?気持ち悪くないのか?」
これほど神に愛された容貌に不安を持つなんて、一体何があったの?
「本当よ。美しいわ。どうしてそんな風に思ったの?」
その答えは与えられなかった。
ブリスがいきなり掴んでいた手を引っ張った。
ブリスの裸の胸に倒れこみ、そのままぎゅっと抱きしめられる。
「好きだ」
耳元でささやかれた言葉は熱かった。
もう雨粒が水面を叩く音も、木の葉がこすれる音も聞こえない。ブリスのか自分のかわからないドクドクと騒ぐ鼓動の音しか。
「また永遠の下着姿が見たい。できれば何も着てない姿が」
永遠の唇からうめき声が漏れる。彼の胸を押し、温かい腕から逃れた。
「わざとお風呂で水を撒き散らしたのね、私を濡らすために」
「あんなチャンスを逃すわけねーだろ」
にやっと笑ったブリスの口から犬歯が覗く。
「あなたは何者なの?狼、それとも人間?」
ブリスが永遠の髪を弄ぶ。
「両方。俺はウェアウルフだから」
「ウェアウルフ?」
髪をいじるブリスの手を掴む。心の中で言い訳をしながら。髪を乱されたくないからよ。別に心がざわつくからじゃないわ。
ブリスが片眉を上げ、動きを阻む永遠の手を見た。
「言っとくけど狼男と一緒にすんなよ。あいつらは満月がねーと何にも出来ない輩だ。ウェアウルフは自分の意思で姿を変えられる」
ブリスが指先で永遠の手の甲を撫でている。
自慢げに口角を上げるブリスは無邪気であり、やはり美しかった。狼でいてくれる方が助かるわ。
ハッ、ハクシュン!
気づけば二人とも濡れそぼっていた。
「寒いんだろ?これ使えよ」
ブリスが腰に巻いたショールを外そうとする。
「いえ、いいの!気持ちは嬉しいわ。だけど…外さないで!」
金切り声を上げ、手で顔を覆う。
急に温もりに包みこまれたと思うとまたブリスの腕の中にいた。
「どうしてあなたは私より…薄着なのに、暖炉みたいに温かいの?」
ここから逃れることは拷問に等しい。少しだけ自分を甘やかすことにした。
「永遠への愛が俺の中で燃えてるから」
永遠は目をつぶり、口の中でつぶやいた。あの時と同じ言葉を。
まったく、何てものを拾ってきたのかしら。




