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ラストメモリー  作者: 黄昏アオ
流離う心たち
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謎の男

 クリスチャンの様子がおかしい。

 永遠はいぶかしんでいた。今まで優しい彼しか知らなかった分、余計にクリスチャンの機嫌の悪さが気にかかった。

 最初は彼が自分の気持ちを曝け出してしまったことが気恥ずかしいのだろうと思っていたが、それが数日ともなると心配せずにはいられなかった。

 クリスチャンの話を聞いた翌朝、ブリスとの日課の散歩から戻り、いつものように朝食を用意した。そしていつものように三人で食事をした。

 だがいつも通りなのはそこまでだった。

 クリスチャンは普段なら眉をひそめはすれど何も言わなかったのに、ブリスの食べ方にいちゃもんをつけ、ブリスをかばった永遠にもあたった。

 そして彼は食事を残そうとした永遠に食べろと声を荒げた。彼はその直後、血相を変えてどこかへ行ってしまった。

 それから永遠は初めから自分の分は食事を用意しなくなった。もともとあまり食べていなかったから大した違いはなかったが。

 こうして雨粒の滴る木の下で、寒い思いをしながらブリスに寄り添っているのもそのせいだった。

 今日はとりわけ彼は虫の居所が悪かった。永遠は慌てて雨のそぼ降る森へと、上着も、傘さえも持たずに飛び出した。

 彼は私のことも不愉快な女だと思い始めたのかしら。だとしても私には日本に帰る手段も、帰りたいと思う理由もない。クリスチャンのいない場所にいく理由など。

 だからせめて彼が館から出なくて済むように、永遠は一日のほとんどをこの森で過ごしていた。

 頬に一粒、冷たい雨が落ちた。永遠はそれを拭いもせず、ただ流れるままにした。

 ここ数日してきたように、薄いショールに包まり湖を見つめた。湖はいつも変わらずそこにあって永遠の心を慰めた。朝から晩までずっと眺めていても飽きることはない。

 湖は永遠に常に違う姿を披露した。今日は雨粒が水面(みなも)を叩き、波立つそれは何かに怒っているかのようだ。

 「飽きないか?」

 すぐ隣から聞こえた声に悲鳴を上げた。

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