肖像画
夜中になってもクリスチャンは戻ってこなかった。
スペインじゃなくて北極に行ったのかもよ?
ハハハ、面白い冗談ね。
昔の貴族が使っていたようなソファにすわり、クッションを絞め殺すように腕に抱いた永遠はうるさい心の声と戦っていた。
険悪な雰囲気を敏感に感じ取ったブリスは、食事を済ませるとさっさといなくなっていた。
目の前の柱にはクリスチャンの自画像がかかっていた。それは長い月日に侵食されもろそうだ。
描かれた彼は十代に見えるがきっと三百歳くらいなのだろう。
動かない彼を睨みつける。
もう寝る!
彼の心配なんてする必要ないじゃない。今がたとえ夜中だとしても彼はヴァンパイア。夜の生き物だもの。
クリスチャンの部屋のドアノブに手をかけようとして思いとどまった。
どうしてこんなに広い家なのに彼の部屋で寝ようとしているの?
むすっと廊下を歩き回り、彼のそばから出来るだけ遠い部屋を選んだ。
ベッドに入ると目を閉じ悶々とした時間をすごした。
館に戻ったときにはすでに東の空が染まり始めていた。
永遠が起きて待っていると思うほど自惚れてはいない。
が、自分の部屋にいないというのは気に食わなかった。
眉一つ動かさず、クリスチャンは自分の部屋をあとにした。
耳を澄ます。
ゆっくりとした小さな鼓動と、大きく力強い鼓動が聞こえた。
小さな鼓動を選び音を頼りに、自分の部屋から廊下をかなり歩いたひとつのドアの前に立った。
その必要もないのにそっと脚を踏み入れた。




