生け捕り
『お願い、クリスチャン』
彼女が初めて自分の名を呼んだ。彼女は気づいていないのだろうが。
クリスチャンは狼を肩に担ぎ、館に向かって森の中を歩いていた。
彼女はずっと狼に目を向けており、どこそこの傷がああだのこうだのと騒いでいる。
クリスチャンは全く気に食わなかった。スコットランドに着てからはずっとそうだ。以前は安息の地だったのに、今では呪われた地のように感じる。次から次へと厄介ごとが舞いこんでくる。最初はエリカで次は狼だ。今度は何だ? 何が起きても驚くまい。
クリスチャンはため息をつくと永遠を見やった。
「ねえ、あなただけでも飛んで行ったほうがいいんじゃない? この子ぐったりしているわ。さっきまではあなたがわざとこの子を揺らして歩くたびに唸っていたのに」
永遠は、足音も立てないでそっと歩けるくせにとつぶやき、横目でクリスチャンを見やった。
クリスチャンはにやりとした。
永遠がシチューを作った夜、クリスチャンは彼女を死ぬほど、いや、笑い転げるほど驚かせた。
「いや、こいつと君を抱えて飛ぶことくらいわけはない。だが、こいつは大丈夫だ。こいつはただの狼ではない」
クリスチャンは隣を歩く永遠を見た。
「そんなこと見ればわかるわ、私にだって目はついているんだから」
なんと、彼女は気づいていたのか。
「きれいな目よね、グリーンとゴールド」
クリスチャンは彼女から一瞬目を逸らし言った。
「ああ、そうだな。左右で色が違う目を何と言うか知っているか?」
彼女が首を横に振る。
「オッドアイというのだ。オッドとは奇妙な、不揃いのという意味だ」




