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ゆきだるま

作者: 望月琴乃

愛することを知らない少年は、いつも誰かを傷つけてばかり。

少年は誰からも愛されたいのに、そんな少年を誰も好きになってはくれません。

愛することを知らない少年の不器用さにも、誰も気づいてくれません。

少年はいつもひとりぼっち。

少年は愛されることのない寂しさに涙を流します。

少年の心の中は、悲しみ、寂しさでいっぱいです。

でも、誰もそのことを知りません。


○○○


少年はいつもひとりです。

村の子どもたちとも遊びません。

友達という言葉も知りません。

家族は誰もここにはいません。

思い出の中の人は、もういません。

少年の知らないところで、みんな姿を消してしまいました。


○○○


少年の心の涙を止めてくれる人は、どこにもいません。

誰か助けてあげてください。

歌を歌ってあげてください。

優しい言葉を掛けてあげてください。

神様、どうか。少年をその優しいまなざしで見守っていてあげてください。

少年が幸せで在れますように。

誰か、少年の心を慰めてあげてください。


○○○


少年の行動は心とは正反対。

それに気づいたのは、僕一人?

聖堂の中で少年が、ずっとひとりでマリア像を見上げていたのを知っているのは、僕だけ?

少年はどんな気持ちで、どんな瞳で、マリア様を見ていたのでしょう。

僕はひとり、考えます。

聖堂の扉をそっと開けて、こっそり中をのぞきます。

今日は少年の姿はありません。

どこへ行ってしまったのでしょう。

僕には見当もつきません。

僕はまたひとり考えます。

僕はまだ子どもで、少年もまだ子どもで、一人で遠くになんて行けなくて。

だったら、どこにいるのでしょう。

ねぇ、誰か知りませんか?

僕は早く少年に会いたいです。

会って一言いたいです。


「友達になってください」


白い雪が降り始めました。僕の両親が心配し始めます。

だから、早く帰らないといけません。

でも、僕は会いたいです。


○○○


少年はこの雪の世界の中にいます。

雪は白くて冷たいものだけど、少年にとっては、とても温かな贈り物です。

少年は雪が大好きです。

雪の日の思い出が蘇ってきます。

大好きなお父さん、お母さんと一緒に、暖炉の前でご本を読んだり、お歌を歌ったり。

一緒に外で遊んだりもしました。

でももうその人たちはいません。

少年はひとりで大きな雪だるまを作ろうと思いました。

けれど、なかなかできません。

どうしても小さな雪の塊が、大きな雪の塊の上に乗ってくれません。

少年は困ってしまいました。


○○○


僕は帰り道でした。

少年はじっとその丸い二つの塊を見て、考え事をしているようです。

僕はそっと近づきました。

雪は僕の下で、さくさくと音をたてていました。

少年はその音に気づいてはいません。

トントンと背の高い少年の肩を、僕は一生懸命背伸びをして叩きました。

少年は驚いたようでした。

僕がにっこり笑って言いました。

「ねぇねぇ、おにいちゃん。なにつくってるの?」


○○○


少年は困ってしまいました。

少年は僕のことを知りません。

だから僕がなぜ、少年に声をかけたのか、わかりません。

僕は少年のそんな様子など気にしていません。

楽しそうに大きな雪の塊二つを交互に見比べています。

少年は走り出しました。

僕の姿が見えなくなるまで走っていくつもりでした。

でも、少年にはできませんでした。

少年の後ろを、僕がこけそうになりながらも、ついてくるからです。

少年には僕がどうして追いかけてくるのか、わかりません。

「おにいちゃん。あそぼ。おいかけっこ、楽しかったよ」


○○○


ふたりは歩いて、さっきまでいた場所に戻ってきました。

僕は少年にいろいろな話をしました。

でも、僕はまだあの言葉を言えませんでした。


○○○


少年はもう一度小さな塊を大きな塊に乗せようとしています。

僕は一緒に手伝います。

でも、何度やってもうまくいきません。

少年はだんだんつまらなくなってきました。

二つの塊をそのままにしておくことにしました。

僕がそれを見て言いました。

「これなぁーに?」

「雪だるま」

少年は失敗作になってしまったそれを見て呟きました。

僕は楽しそうにまた何かし始めました。

少年はその姿をじっと見ていました。

僕が嬉しそうに言いました。

「できた~!!」

少年がその失敗作を見ると、顔がついていました。

「雪だるま?」

「うん。眠ってる雪だるまさん」

少年はそれを聞いて笑い出しました。


○○○


僕は少年が笑うのを初めて見ました。

僕は何がおかしいのか、わかりません。

その雪だるまには、手もバケツの帽子もありません。

やっぱり雪だるまというには未完成です。

僕がそれを嬉しそうに言うので、少年にはおかしかったのでした。


○○○


少年は僕をお家まで送ってくれました。

手を繋いで一緒に帰りました。

さよならを言って別れる前に、僕は頑張って言いました。

「僕とお友達になってください」

少年は笑っていました。

僕の頭に手を置いて言いました。

「またな」

小さな小さな声でした。

少年は少し照れているようでした。

僕は去っていく少年の後姿に向かって言いました。

「またね。おにいちゃん」

僕は少年の後ろ姿が見えなくなるまで見送っていました。


○○○


少年には帰る家はありません。

少年は、どうしてあんなことを言ったのか、わかりません。

少年は歩きながら考えます。

マリア像のある聖堂の前まできました。

でも、中には入れません。

ミサの最中です。


○○○


少年はまた歩き出しました。

そんな少年を見て、シスターが声をかけました。

シスターは少年に言いました。

「お入りなさい。外は寒いでしょう?」

少年は、シスターがなぜ、そんなことを言うのかわかりません。

走り去ろうとする少年に言いました。

「お待ちなさい。そのまま夜を迎えては大変です。お入りなさい。いつも聖堂にいらっしゃるでしょう。もう少しでミサも終わります。少しの間だけでもおいでなさい」

少年は考えます。

シスターは少年を見ています。

この冬の夜、外にいれば凍死してしまいます。

そんなことになったら僕との約束は守れません。


○○○


少年はシスターに案内され、中に入りました。

とても暖かな場所でした。

あの寒さが嘘のようです。

少年は窓の外を見て、思いました。

僕と少年は、約束は何もしていませんでした。

どうしてあの時そう思ったのでしょう。

少年は僕の言った友達に惹かれたのかもしれません。


○○○


僕は少年にできた初めての友達です。

少年と僕は一緒に遊ぶようになりました。

シスターはそれを嬉しそうに見ています。

窓の外の季節は移り変わっていくけれど、少年と僕の絆は変わりません。


○○○


ふと僕は思いました。


あの雪だるまはどうなってしまったのだろう。と。





<end>


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] なぜか懐かしいような、すがすがしい気持ちになりました。
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