初めてのプロポーズ(前編続き)
「はい、もしもし花形です。」
「花形さんのご主人ですか?やっと繋がったわ、こちら旭山病院の杉山と言います。奥さんが今日事故に遭われてこちらに入院する予定なのですが、今から来られますか?」
「は…?何かのイタズラですか?妻は寝室で寝てますが…。」
僕は受話器を持ちながら寝室のドアを開けた。そこに妻の姿はない。
まさか…本当に…。
「それで妻はどのような状態なのですか?」
僕は焦る気持ちを必死に抑えながら冷静に尋ねたつもりだったが、受話器を持つその手が微かに震えているのを感じた。
「幸い命に別状はありません…後は病院の方でお話致しますので…今から来られますか?」
命に別状はないと言う言葉を聞き、僕はほっと肩を撫で下ろした。
「分かりました、すぐに伺います。」
とだけ答えると受話器を置き、家を出た。
旭山病院はこの付近では数少ない救急指定総合病院の一つで、車で15分程行った先の丘の中腹にある。
最寄りの駅まで歩き、そこでタクシーに乗り変えた。
病院に着くと建物の端の方に救急入口と書かれた看板があり、そこを通り抜け病院の中へと入った。
中に入ると40代後半と思われる女性が立っていた。
その胸には杉山と書かれている。
「すいません、花形です。妻は?」と言うと、
「花形さんのご主人さんですね?その椅子で少しお待ちいただけますか?」
と言われ、僕は椅子に座った。
しばらくすると、医者が僕を診察室へと招きいれた。
「あの、妻はどこにいるんでしょうか?」
と僕が尋ると医者は、
「恵美子さんは今病室で休まれています。傷の方も軽傷ですので心配はいりません。ただ、事故に合った際に頭部を強く打ち付けたみたいなのです…。検査所見では問題は見当たりませんでしたが…。」
医者はそこで口を止めた。
「何か問題でもあるのですか…?」
僕は恐る恐る尋ねた。
医者は少し間を置いた後、こう答えた。
「記憶を失っているようなのです…。」