生身の体に機械の心
キャンプ場の一角に設営された大きなテントの中。そこで俺は上裸でパイプベッドの上でくつろいでいた。
右肩から先。俺の体のその部分が機械に置き換わっていた。
誰もこんなへんてこな体に望んでなったわけじゃねぇ。任務中に転がってきた手榴弾を食らった。
いつも死ぬ覚悟で任務に従事していたが、目が覚めてから欠損部分を見ると流石に思うところがあった。
そこで医者に相談したところ機械のパーツが余っているという話を聞いた。
本来は業務用のロボットの交換パーツだが、関節部分に変換アダプタを噛ませることによって今までの手足と遜色のない程度に動かせると。
その口車に乗って俺はまんまと大金をはたいて手術を行ったが目を覚ました頃には騙されたことに気づいた。
右腕を見ると家庭用に使われていたであろう場違いな明るいカラーがそこにはあった。
受け入れ難かったが、これがこれからの手だと数日かけて飲み込んだ。
そして、その日から俺の頭の中で不思議な声が聞こえてくることがあった。
任務のストレスで頭が少しおかしくなり、変な声が聞こえる仲間を見てきた。そいつらは故郷に帰っていった行ったがついには俺の番になったのかと思った。
だが、どうやら少し違うことに気づいてきた。
「さっきから独り言をブツブツと耳障りですね。」
そう、この声だ。機械音声のような無機質なこの声は俺だけが聞こえているようだ。
「うるせぇ黙ってろ。」
「私と貴方は文字通り一心同体です。」
こいつが前に説明したところによると、元々は右腕に使われていたパーツの持ち主である家庭用お手伝いマシーンに搭載されていたAIだと。
長い年月、人間に従事したが年期が入ったこいつは回収され廃棄されたらしい。
そして気づいた時には俺の右腕となり"意識は俺の頭の裏側にある"らしい。なんて詩的な例えだ。
「事実ですよ。」
声は言う。得たいの知れないモノは怖いのでライリーと名付けた。
そしてこいつの声は時が経つにつれ次第に大きくなってきた。
「機械の体を持つ人間か、人間の体を持つ機械かのどっちでしょうかね。」
数日後、俺は現地の軍人と共にパトロールをしていた。内乱が勃発して治安が悪化したこの地で銃を持っているとはいえ歩き回るのは自殺行為に等しい。
だからこの任務の値段が高い。命を張る価値はあった。
「あなたが任務中に負った怪我で機械のパーツに取り替えましたが、その時に借金を負いましたね。リスクとリターンを再度検討する必要があるかもしれません。」
頭の中で声が響く。こいつはジョークを言わない。つまらない事実しか喋らない。いつの
時代もAIがクソなのは改善されなかったようだ。
歩いていると現地人が俺の腕を見る。色はスプレーで目立たないように黒に塗り替えているがやはり異質なものに見えるのだろうか。
その内の一人のガキが目に入った。俺と同じく右腕を欠損しているがそのままだ。
そいつは俺の腕をジッと見ていた。俺が見ていることにさえ気づいていないようだ。
その眼差しは俺の機械の腕を欲しがっているようにも見え、同時にそこまでしてこんな場所にいる俺を哀れんでいるようにも見えた。
「武器を持っています。」
「あ?」
「2時の方向。」
そちらに目をやると車が一台止まっていた。古いバンだ。その近くで男3人が固まってこちらの様子を伺っているように見えた。
「武器は確認できないぞ。」
「貴方が確認してから3人を相手になんかしたら無傷で済みません。報告を。」
こいつの言うとおりに動くのは癪だが万が一ということがある。
俺は前を話しながら歩いていた現地の軍人二人を呼び止めた。
「2時の方向にいる男3人が武器を持っているところを見た。」
男2人が目をやる。あいつか?という顔をしたので頷いた。
そうすると2人は銃を構えたのと同時にバンの向こうの男3人も突如銃を構えてこちらを撃ってきた。
身構えていたとはいえ、体が震えて反応が遅れる。銃を構えたのと同時に目の前の軍人2人が倒れるのが見えた。
俺は撃つのを止めて急いで近くの塀へと飛び込んだ。顔を出して様子を見ると向こうも男が2人倒れているのが見えた。バンの陰からもう1人の生き残った男も同様に顔を出してこちらを伺っているように見える。こちらには発砲して来ない。
俺でも狙えば当たらない距離でもないが、こんな場所で無茶はしたくなかった。
「なぁ、お前ならこの距離当てられるか?」
「ええ、私なら。」
俺は背嚢を地面に置いた。伏せてそこに銃を据えて右手をトリガーにかけた。照準もトリガーも全てライリーに任せることにした。
徐々に体をズラしながら狙えるギリギリの位置で止まった。
「頼んだぞ。」
「お任せを。」
ブレが一つもないスムーズな照準の後にトリガーが引かれた。銃弾は真っ直ぐ奴の額を撃ち抜いた。
「クソが。」
数ヶ月後、ついに内乱の首謀者である男の居場所を突き止めた。そこへの襲撃任務だがこれもまた良い値段がしている。そしてこの任務でちょうど俺の手術代の借金は払い終えることのできる額だった。
当日の夜には俺は車の荷台に押し込まれて現地へと向かった。そこは馬鹿でかい館で入り口周りは既に同業者たちが制圧していたが中はまだ手つかずの様子だった。
「こういうのは特殊部隊とかがやるかと思っていた。」
「おいしいところはそうなるでしょうね。危険なところは消耗品である私たちですよ。」
荷台から飛び降りて装備品のチェックをする。他の奴はしないだろうがこんな細かいところが長生きの秘訣だ。
2階の窓はバリケードを内側から構築しており入れない。
1階の正面から堂々と突入する必要があった。見渡すと同業の中には夜戦に特化したスコープや機材を取り付けている者もいたが、あんなおもちゃはこんな狭い場所では荷物にしかならない。
リーダーのような男が招集をかけて、いよいよ俺は突っ込んでいった。
フラッシュバンを一発投げ入れる。爆発と同時に顔を出すと思ったより中は広く効果は薄いように思えた。
マズルフラッシュと轟音、おまけに銃弾がこっちをめがけてやってくる。
「ビュッフェといきましょう。」
もはやこいつの声は俺の声帯を通して声となっていた。もう誰も構いやしない。
一階の隅々まで制圧した。二階への階段を上がろうとした瞬間にリーダー格の奴が俺たちを止めて
「お前たちの仕事はここまでだ。後は特殊部隊の奴らがなんとかする。」
なんて言い放った。
思ったより呆気なく仕事が終わって油断していた。その館には裏口がありその出口から丁度俺が帰ろうとしていたタイミングで鉢合わせしたことに気づいた時に遅かった。
目の前に手榴弾が転がってきた。あの時の記憶がフラッシュバックする。
爆発する。またあの痛みがくる。痛いのはもう嫌だ。体を機械にするなんてふざけてやがる。手術で済むのか。ああ、神様。母さん。
「防弾ベストを被せて右腕で押さえてください!」
頭の中で声が響く。考えるよりも先に動いた。いや、動いたのは俺ですらないかもしれない。
防弾ベストは左右でロックされておりそれを解除して頭から脱いで手榴弾を右手で押さえた。
目を逸らす。その瞬間に爆発したが、思ったよりも音が小さく少し安堵した。だが、右手に目をやると防弾ベストを貫通した破片が右腕の手首から先を吹っ飛ばしていた。
「やばかったな!ははは…マジでやばかった!」
極度の緊張が解けてハイになっているのを感じる。銃を左手に持ち替えて撃つと奴は倒れた。
俺は立ち上がり車へと走った。そこには同業者が待機しており荷台へと飛び乗ったと同時に車は出た。
「マジでやばかった!また死ぬかと思ったぜ!」
俺の声がさみしく車内に響いた。
「ライリー?」
頭の中はいつもより少しだけ静かになっていた。再び手首から先を失った右手を見る。
「まぁ、手術なんかしなくても孫の手にはなるよな。」
その任務が終わってから俺は傭兵から足を洗った。今はガソリンスタンドの店員をしている。
失った右手は結局は肩の関節部分で外して軽くした。だがそのパーツはどうしても捨てきれない。
ただのゴミなのに?そうあいつなら笑ったかもしれない。




