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愛される風の聖女は言うんじゃなくて言わせたい  作者: 満原こもじ


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第5話:風の神の加護の可能性

「ほへー、お兄さんの家は豪邸だねえ。ビックリしちゃった」

「ちょっとわけがあってね」

「旦那様、お帰りなさいませ。既に宮廷魔道士長殿がいらしております」


 青年アーノルドの家は大きかった。

 しかしアーノルドが『旦那様』と呼ばれていた。

 どうやらアーノルドが主人みたいだ。

 こんなに大きな家なのに両親はいないのかなと、フーカには不思議に思われた。


「うむ、すぐ行く」

「そちらのお嬢様がフーカ様ですね?」

「そうです。こんにちは」

「神の加護の持ち主を連れてきたと、先にヴェノに伝えておいてくれ」

「承知いたしました」


 執事が去ったあと、フーカは尋ねた。


「お兄さんは本物の貴族なの?」

「というか僕はクドナック王国の第三王子なんだ」

「王子様だったのか。ええ? すごい!」

「今まで隠しててごめんね。もっとも全然すごくはないんだ。僕はただの女官の子だから、あんまり存在感はないけど」


 隠すも何も、王子なんて調べればわかることだ。

 現在の王に王子は六人いるが、アーノルドの王位継承順位は六番目。

 正妃、次いで側妃の子が優先されるから。

 将来王になる目などゼロに等しく、ほぼ忘れられた王子と言ってもよかった。

 あんまり存在感がないというのは謙遜でも何でもなく、単なる客観的な事実に過ぎない。


 アーノルドは王宮に住むことを許されず、この離邸を与えられて元女官の母とともに居住していた。

 庶民のフーカから見れば豪邸だったが、王子としての扱いではなかったのだ。

 無為の生活を続けていれば飼い殺しの運命だったろう。

 剣術にも魔法にも優れた才能を示したアーノルドは、自分の存在感を示せず朽ちてゆくということに耐えられなかった。

 冒険者という危険を伴う道を選んだ理由がそこにある。

 

「こちらへどうぞ」

「はーい」

「アーノルド様。そちらが?」

「ああ、紹介しよう。宮廷魔道士長のヴェノ・テニエルだ。こちらは僕とパーティーを組んでいるフーカ」

「ヴェノさん、こんにちは。ナグという辺境の村出身のフーカだよ。にこっ!」


 宮廷魔道士長ヴェノ・テニエルは、アーノルドの魔法の師でもある。

 アーノルドの非凡な素質を知る数少ない一人であり、それだけにアーノルドが現在置かれている状況を歯痒く思っていた。

 アーノルドが冒険者を志向することに必ずしも賛成しているわけではなかったが、しかしある程度リスクを取らなければいけないと理解してもいた。

 ヴェノはフーカを見、そのしわ深い目を丸くした。


「何と! アーノルド様ほどの実力者がパーティーメンバーとして選んでいるのが、可愛らしい少女とは!」

「えへへー」

「風の神ゼフノボレロスの加護持ちともあればむべなることかな」

「フーカの技はまだまだ応用が利くと思うんだ。ぜひヴェノのアドバイスが欲しい」

「ふむ、フーカ嬢の技を見せていただけませんかな?」


 稀な神の加護を持つ少女の技を実際に見ることができる。

 研究者としてヴェノは胸躍った。

 フーカは風を吹かせる技、カマイタチ、圧縮空気、気配読み等を見せる。

 ヴェノは腕を広げて感嘆した。


「素晴らしい! 一般の高レベル風魔法使いのできることは一通り可能ではないですか。しかも魔力を必要としないのでしょう?」

「うん」

「大変なものです。よく冒険者という職を選ばれた。技を極めるならば最適でありましょう」


 風の神の加護を持つとなれば、その能力を存分に発揮するためにレベルが必要だ。

 平民がレベルを求めるのなら、魔物を退治するハンターないし冒険者を選ぶのは第一選択であろう。

 ヴェノは思った。

 この可愛らしい少女に冒険者は必ずしも合っていないのかもしれないが、正しい道を歩んでいるのだ。

 アーノルドとは出会うべくして出会ったのだろう、と。

 

「ちなみにフーカ嬢は、圧縮空気をどのように使用しています?」

「カマイタチの通じない硬い魔物にぶつけたり、盾にしたりとか」

「大変結構。小さいブロック状にして固定すると、足場にしたり椅子にしたりできますぞ」

「あっ、なるほど!」


 フーカはアイデアに感心した。

 そして圧縮空気はまだまだいろんな使用法がありそうだと気付いた。


「それから使い手はほとんどいませんが、飛行魔法は風魔法です」

「飛行魔法って、空を飛べるってこと? すごい!」

「ハハッ。かなり制御は難しいとされるものの、フーカ嬢ならいずれ可能と思われますぞ」

「面白そう! やってみる!」

「今ですか? アーノルド様、回復ポーションの用意を」

「ああ」


 三人は庭に出た。


「いくよー」

「フーカ、気をつけて」

「多分大丈夫!」


 フーカは飛行魔法の存在を知らなかったが、飛べるということにワクワクした。

 飛ぶイメージもすぐ湧いた。

 強い風が巻き起こる。

 ケガの危険があったのでヴェノは回復ポーションの必要性を喚起したが、フーカは屋敷を一回り飛んで、フワリと着地した。


「ハハッ、回復ポーションなど必要ありませんでしたな。実にお見事な制御でしたぞ」

「うーん、自在に飛ぶためには結構練習がいりそう。メッチャ風が吹いちゃうから、探索では使えないな。いや、風で飛ぶって意識しないほうがいいのかも?」

「飛ぶこともできる、というオプションだな。今のところは。ヴェノ、他にはどうだ? 思い当たることはあるか?」

「風魔法の応用、という面ではこれで全てでしょうが……」


 ヴェノの目が興味深げにフーカを見つめる。


「神の加護とは、神の力を借りて行うアクションなのです。魔法とは根本的に違います」

「ふんふん、ということは?」

「ゼフノボレロスが、風だけしか能のない神だと思いますか?」

「えっ?」


 思いもよらぬことを言われたように、フーカは目をパチクリさせた。

 風の神様なんだよね?


「フーカ嬢のレベルが低ければ、もちろん風の力を引き出すだけで精一杯でしょう。しかし現在のレベルなら違います。風以外の力も使えるでしょう」

「……よくわかんない。例えばどういうことかな?」

「古のゼフノボレロスの加護持ちの使う技に、『癒しの風』というものがあったという記録があります。名から察するにおそらく、回復技かと思われます」

「えっ、神様すごい!」


 回復や治癒の術は希少だ。

 それが使い放題ならばどれほど有用であることか。

 フーカはワクワクした。


「これ以上何ができるかは、フーカ嬢の想像力にかかっておりますぞ。せせこましい枠組みに自分を当てはめる必要など必要ありません。風だけに捉われることもないのです。イメージを発達させましょう。それが神の加護の力を存分に用いる手段ですぞ」

「わかった。ヴェノさんありがとう。あたし頑張る!」

「うむ、フーカ嬢ならきっと最高の風の使い手となれるでありましょう。わしも期待しております」

「食事を用意させよう」

「わあい、やったあ!」


 お腹のすいていたフーカは小躍りして喜んだ。

 そんな微笑ましい様子を見ていたヴェノが言う。


「フーカ嬢、アーノルド様のことをよろしくお頼み申します」

「任せて。あたしもお兄さんのこと好きだからね」

「えっ?」


 ヴェノはアーノルドとフーカのコンビなら、望み得る限り最高だ。

 アーノルドの実力を世に示すのに最適だろうと思った。

 フーカはそんなヴェノの親切心を察し、ヴェノはアーノルドが好きなのだなあと考えたのだ。

 だからあたし『も』好きと表現した。

 しかしアーノルドはいきなりの愛の告白なのかと面食らった。

 決してフーカにそんな気はなかったのだが……。


 執事がやって来て言う。


「皆様、食事の用意ができました。こちらへお越しください」

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―◇―◇―◇―◇―◇―
にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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― 新着の感想 ―
お兄さんも私を好きなんだよね? にこっ なんてやられたらトキメイちゃいますよね! ローティーンの子が年上に憧れるのはよくあることですし、誤解しても仕方なし!
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