27
王都ルグバレア。
劇場街。
現在。
空前の異界文学ブーム。
『悪役令嬢と氷の公爵』
『軍師無双伝』
『妖怪恋愛百景』
若者は熱狂。
貴族令嬢は泣き。
劇場は連日満席。
だが。
当然。
全員が喜んでいるわけではなかった。
◾️ 古参劇作家たち
「……ふざけるな」
老劇作家ガルディンは酒を叩きつけた。
「何だあの低俗な恋愛劇は」
酒場の空気が重い。
周囲には同業者たち。
全員顔が死んでいた。
「また“婚約破棄”だ」
「また“実は最強”」
「また“悲恋”」
「客が全部そっちへ流れた」
劇場収入激減。
特に。
古典派が深刻だった。
今まで人気だった、
* 英雄叙事詩
* 神話劇
* 王家悲劇
* 騎士道劇
これらが。
急激に古臭く見え始めた。
「若い連中はもう感情の起伏が強い劇しか見ん!」
「“続きは次回!”とかいう下品な手法まで……!」
「だが売れている……!」
そこが最悪だった。
批判できない。
実際面白い。
そして。
もっと憎たらしいことに。
「……」
レイ本人。
別に偉ぶらない。
芸術家面もしない。
『のだっ♡』
『働きたくないのだぁ♡』
あの態度。
ガルディンはそれが余計に気に食わなかった。
「芸術を舐めている」
「……」
「なのに」
酒を飲み干す。
「なぜあんなに面白い」
誰も答えられなかった。
◾️ 一方その頃
「のだぁ〜♡」
レイ。
普通に劇場へ来ていた。
「今日は神話劇なのだぁ♡」
王都中央大劇場。
本日は。
【炎神アルカディアの悲劇】
この世界では超有名な古典劇。
「のだっ♡」
レイはワクワクしていた。
完全にオタク。
「異世界の神話なのだぁ♡」
侍女たちは苦笑する。
「本当に好きですね」
「うむっ♡」
レイは真顔だった。
「ゲームいっぱいやってたから神話好きなのだぁ♡」
実際。
レイはかなりゲームオタクだった。
RPG。
ファンタジー。
神話モチーフ。
大好物。
だから。
異世界本物神話。
そりゃ気になる。
「のだぁ〜♡」
レイは前のめりだった。
そして劇開始。
◾️ 神話劇
『炎神よ!!』
舞台。
巨大演出。
神々。
英雄。
戦争。
「おおっ♡」
レイの目が輝く。
「ちゃんと神話なのだぁ♡」
テンション高い。
周囲の客がチラチラ見る。
今やレイ本人も有名人。
「あれレイ様では?」
「本物だ……」
しかし。
レイは気にしない。
完全に観劇モード。
『神は人を愛した』
『故に滅びた』
「うおぉ……」
レイは普通に感動していた。
「重いのだぁ……」
この世界の神話。
かなり暗い。
神も死ぬ。
英雄も死ぬ。
救いも薄い。
でも。
だからこそ味がある。
「良いのだぁ……」
侍女が驚く。
「レイ様でもこういう古典好きなんですね」
「当たり前なのだぁ♡」
レイは真顔。
「面白いものは面白いのだぁ♡」
これがレイの本質だった。
別に。
古典を馬鹿にしているわけではない。
むしろ。
めちゃくちゃ好き。
ただ。
摂取した量が異常。
だから混ざる。
「のだぁ……」
レイは舞台を見つめる。
「これ絶対ゲーム化したら売れるのだぁ……」
「また始まった」
レイ脳内ではもう、
【炎神アルカディアRPG化計画】
が始まっていた。
◾️ 劇作家ガルディン
「……?」
舞台裏。
老劇作家ガルディンは観客席を見る。
「……」
レイ。
めちゃくちゃ真剣に見てる。
笑ってない。
茶化してない。
むしろ。
普通に感動してる。
「……」
ガルディンは少しだけ困惑した。
異界文学の男。
若者文化破壊者。
古典殺し。
そんなイメージだった。
だが。
「……」
レイは本当に舞台を楽しんでいた。
『おおぉぉ……』
『この伏線熱いのだぁ……』
普通にオタクだった。
◾️ 終演後
「最高なのだぁ♡」
レイ大満足。
「神が人を愛した結果滅ぶとか最高なのだぁ♡」
「感性が重いですね」
「古典悲劇って感じなのだぁ♡」
レイは興奮していた。
「しかも最後の独白良いのだぁ!」
「あと炎演出も良かったのだぁ!」
「神話武器絶対人気出るのだぁ!」
止まらない。
その時。
「……異界文学管理官」
「のだ?」
振り返る。
老劇作家ガルディン。
周囲がざわつく。
古典劇の大御所。
そして。
レイ嫌いで有名。
「……」
レイは首を傾げた。
「おおっ♡作者なのだぁ?」
「……そうだ」
「最高だったのだぁ♡」
即答。
「炎神の孤独感めっちゃ良かったのだぁ♡」
「……」
「あと最後の“愛したから滅びた”って構図めっちゃ好きなのだぁ♡」
「……」
ガルディンは止まった。
レイは続ける。
「あとぉ!」
「まだあるのか」
「神話武器もっと盛れるのだぁ♡」
「盛るな」
「あと敵側視点スピンオフも絶対人気出るのだぁ♡」
「……」
ガルディンは思った。
(こいつ……)
文学を舐めてるわけじゃない。
むしろ。
異常にコンテンツ好き。
全部。
摂取対象。
神話も。
古典も。
恋愛も。
妖怪も。
全部面白がってる。
「……変な男だな」
「のだっ♡」
レイは笑った。
「面白いものいっぱいある世界は最高なのだぁ♡」
ガルディンは少しだけ黙った。
そして。
ほんの少しだけ。
憎悪が薄れた。




