第八十九話:蜀漢の百官、龍の陣列と「法」の統治
第八十九話:蜀漢の百官、龍の陣列と「法」の統治
執筆:町田 由美
成都は、新たな主を迎え、かつてない活気に包まれていた。
私は、成都の政庁の最奥にて、劉備将軍を支える「国家の柱石」たちの名簿を改めて検分していた。これは単なる名簿ではない。漢王朝再興という巨大な夢を支えるための、完璧なる布陣図である。
まず、文官の筆頭として、私はかつての同志、そして新たな知恵者たちを適材適所に配した。
「法正殿。あなたは『外事』の要。将軍の傍らで軍略を練り、その苛烈な知略で益州を安んじなさい。……許靖殿。あなたは天下に名だたる名士。その名望をもって、蜀の官位の正当性を内外に示していただく。……そして糜竺殿、簡雍殿、伊籍殿。荊州以来の苦難を共にしたあなた方は、将軍の心の盾。外交と儀礼、そして古き良き絆を繋ぎ止める役割を」
私はさらに、蜀の生え抜きである黄権殿を召し出し、その忠烈な気性を讃えた。彼はかつて劉璋に忠義を尽くし、我らを拒んだ男だが、それゆえに信頼に値する。
さらに、私の事務の負担を分かち合う「将来の宰相」候補として、蒋琬を抜擢した。
「公琰(蒋琬)。……あなたは事務処理の天才だ。私が遠征に出る時、この成都を任せられるのはあなたしかいない。……董和殿も、共に蒋琬を支え、蜀の行政を清廉に保ってください」
武官の陣容もまた、歴史上類を見ないほどに充実していた。
「将軍、見てください。……五虎将の雛形がここにあります。……関羽(雲長)殿は荊州の守護神。張飛(翼徳)殿、趙雲(子龍)殿、馬超(孟起)殿。そして、老いてなお盛んな黄忠(漢升)殿。……この五人が揃えば、曹操の百万の軍とて恐れるに足りません。……さらに、最前線での突破力を担う魏延(文長)殿。彼の勇猛さは、蜀の剣そのものです」
そして私は、まだ幼さの残る費禕という若者をも、馬謖らと共に私の「知恵の教室」へ招き入れた。彼らが次代を担う日まで、私はこの国を磨き上げねばならない。
私は、寝食を忘れ、これら百官の調和に心を砕いた。
「……将軍。……人は石垣、人は城。……蜀の山々は険しいですが、この者たちが一丸となれば、どんな障壁も越えられます。……さあ、いよいよです。……荊州の関羽殿との連絡を密にし、曹操が漢中に手を伸ばす前に、我らが先に動くのです」
だが、この栄光の影で、私は一つの懸念を抱いていた。
私の兄、諸葛瑾が、呉の特使として刻一刻と成都に近づいている。
「……季常(馬良)殿。……準備は良いですか。……これから始まるのは、身内同士の、しかし一寸の土地も譲れぬ『言葉の戦争』です」
西暦215年へと向かう時流。
劉備軍は、荊州勢と益州勢が、孔明という「法」と蒋琬ら「官」の力で一つに溶け合い、真に強大な「蜀」という国家へと変貌を遂げようとしていた。
彼は、自らが配置した百官の才能が開花するのを見届けながら、同時に、東から忍び寄る「同盟の亀裂」という冷たい嵐に備え、羽扇を静かに、しかし力強く仰いだ。




