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『諸葛孔明 星辰の理(ことわり)』  作者: velvetcondor guild


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第八十三話:落鳳の慟哭、三軍合流の刻

第八十三話:落鳳の慟哭、三軍合流の刻


執筆:町田 由美


 蜀の地、雒城らくじょうを望む劉備軍の本陣。

 降り続く小雨は、陣中に満ちる沈痛な空気をより一層重く沈めていた。軍師・龐統を失った劉備将軍は、数日間、食事も喉を通らぬほどに落胆し、形見となった白馬の鞍を撫でては涙を流していた。

 「……私の功名心が、士元を殺したのだ。……私が、彼を追い詰めたのだ……」

 その時、陣の外から大地を揺るがすような怒号が響き渡った。

 「――兄上! 翼徳、ただいま到着いたしましたぞ!」

 幕舎の垂れ幕を跳ね上げ、風のように飛び込んできたのは、張飛(翼徳)であった。その後ろには、白銀の鎧を返り血で赤く染めた趙雲(子龍)、そして――。

 「……将軍。……お久しぶりでございます」

 

 私は静かに歩み寄り、劉備将軍の前で深く、深く一礼した。

 将軍は顔を上げ、私の姿を認めた瞬間、子供のように泣き崩れ、私の肩に縋り付いた。

 「……孔明殿! ……士元が、士元が死んでしまった! 鳳凰を、私はこの蜀の山で失ってしまったのだ!」

 私は将軍の震える背中を、静かに、しかし力強く支えた。

 「……存じております、将軍。……士元殿の星が墜ちるのを、私は荊州で見ておりました。……ですが、泣くのはお止めください。……彼が命を懸けてあなたをここまで導いたのは、あなたの涙を見るためではありません。……あなたが蜀の主となり、天下を救う姿を見せること。それこそが、彼への最大の供養にございます」

 私は、同行してきた趙雲に目配せをした。趙雲は、道中で捕らえた蜀の将たちを、略奪も虐待もせず、整然と連行してきたことを報告した。

 さらに張飛は、江州の老将・厳顔を自らの義気で心服させ、先導役として連れてきたことを伝えた。

 「兄上、この老将軍がいれば、成都までの道は開かれたも同然です! さあ、士元先生の仇、張任ちょうじんを八つ裂きにしてくれましょう!」

 三十三歳の私は、将軍を椅子に座らせると、全将領を召集し、冷徹なまでの軍令を発した。

 「……全軍、聞きなさい。……これより龐統士元殿の葬儀を執り行う。……しかし、それは別れの儀式ではない。……彼の魂を、我ら数万の兵の矛に宿らせるための儀式だ」

 葬儀の夜。

 私は落鳳坡の見える丘に立ち、天を仰いで祭文を読み上げた。

 

 「……士元殿。……あなたは『闇』を歩み、道を拓いた。……これからは、私が『法』を敷き、その道を盤石にしましょう。……あなたが望んだ天下三分の鼎、私がこの手で完成させてみせる」

 翌朝、劉備軍の空気は一変していた。

 悲しみは鋭い刃へと変わり、張飛、趙雲、黄忠、魏延という最強の将たちが、それぞれの陣持ち場へと散っていく。

 「子龍殿は北から成都を包囲。翼徳殿は西から敵の退路を断つ。……黄忠、魏延の両将は、正面から雒城を粉砕なさい」

 私の知略のすべてを使い、荊州から持参した「戦略書」を現実の戦陣へと展開していった。

 孔明が加わった劉備軍は、もはや一つの「生き物」であった。

 

 「……将軍。……ゆきましょう。……あの成都の空に、我らの旗を掲げる時です」

 劉備将軍は、力強く頷き、剣を抜いた。

 「……全軍、進め! ……蜀を、民に返すのだ!」

 龍の咆哮が、蜀の山々を揺らす。

 龐統という犠牲を払って得た、この最後の決戦。

 孔明が指揮を執る劉備軍の猛威の前に、蜀の防衛線は紙細工のように破られ、運命の成都包囲網がついに完成の時を迎えようとしていた。


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