第百五十六話:路傍の野望、麒麟の最終攻勢
第百五十六話:路傍の野望、麒麟の最終攻勢
執筆:町田 由美
西暦260年、初夏。洛陽の土は皇帝の血で汚れた。
魏の皇帝・曹髦の非業の死。この「天を揺るがす不義」の報を聞いた姜維は、漢中の大営で全将兵を鼓舞した。
「司馬昭、ついに主を殺めたか! これ以上の大義名分はない。今こそ、中原の民を賊の手から救い出すのだ!」
姜維。その白髪は増えたが、眼光は鋭さを増し、まるで五丈原に立った際の大叔父・孔明を彷彿とさせる静かな威厳を放っていた。
一方、成都の妻・諸葛氏は、黄皓の妨害を逆手に取り、魏の動揺に苦しむ関中の豪族たちに次々と密書を送った。
「皇帝を殺す者に、従う道理はありますか? 蜀漢の軍が来た時、門を開ける者には、諸葛の名に懸けて安泰を約束しましょう」
彼女の知略は、もはや戦場を越え、民衆の「心」を司馬一族から引き剥がす心理戦へと突入していた。
(天の声:諸葛孔明)
「……仲達。お前の息子は、ついに禁忌を犯した。皇帝をその手で殺しては、もはやお前たちが守ってきた『魏』という国は存在せぬ。ただの『司馬の私領』だ」
(チャチャ入れ:司馬懿)
「……ちっ、昭の馬鹿め、やり方が下手すぎるわ! 毒殺でも幽閉でもやりようはあったものを、白昼堂々血を流すとは……。だが孔明よ、不義だろうが何だろうが、勝てばそれが正義なのだ! ほら見ろ、鄧艾がまた姜維の前に立ち塞がったぞ。奴は地形と土を愛しておる。皇帝が誰になろうと、奴の守りは揺らがん!」
姜維の前に現れたのは、あの滑り芸(?)を乗り越え、さらに執念深く進化した鄧艾であった。彼は侯和の地に、アリの這い出る隙もないほどの重層的な陣地を築き上げていた。
「き、姜維。お、お前の大義など、つ、土の前には無力だ。……ここで、枯れろ」
「大将軍、敵の陣は厚く、一歩も進めません!」
趙の若武者が焦燥の色を見せる。だが、姜維の隣に立つ妻の影――密偵たちが、密かに魏軍の陣地の「通気口」へ、ある仕掛けを施していた。
(チャチャ入れ:司馬懿)
「……おい! 鄧艾! また足元だ! お前の足元で、諸葛の女が何かを掘っておるぞ! 早く気づけ、この地形バカめ!」
(天の声:諸葛孔明)
「……フフフ。仲達、お前が愛した『大地』そのものが、今、姪の手によってお前たちの墓標となるのだ」




