第百五十三話:淮南の火、麒麟の再起
第百五十三話:淮南の火、麒麟の再起
執筆:町田 由美
西暦257年。魏の寿春にて、諸葛誕が司馬昭への反逆を宣言した。
「司馬一族の専横、天これを許さず! 私は蜀・呉と共に、義の旗を掲げる!」
この報が漢中に届いた時、姜維は、降格された後の質素な軍衣を纏い、兵を耕作(屯田)に従事させていた。
「伯約様、叔父上(諸葛誕)が動きました。……今こそ、段谷の恥をそそぎ、長安を衝く最後にして最大の勝機です」
妻・諸葛氏は、かつて夏侯の妹から贈られた白錦を、今は亡き戦友たちの弔いとして身に纏い、姜維に告げた。彼女の密偵網は、魏軍の主力が東方の諸葛誕討伐に割かれ、関中が手薄になっていることを完全に突き止めていた。
姜維は、段谷で傷ついた銀槍を磨き上げる趙の若武者の前に立った。
「龍の孫よ。また地獄へ付き合ってもらう。……今度は、一人の脱落者も出さぬ」
「大将軍……いえ、後将軍! 私の槍は、あの日から一度も止まっておりません!」
(天の声:諸葛孔明)
「……誕よ。ついに立ったか。一族の意地を見せてみよ。……そして伯約。段谷の敗北を経て、お前の目はかつての私に似てきた。……熱を秘めた、冷徹な静寂だ」
(チャチャ入れ:司馬懿)
「……反乱、反乱、反乱! どいつもこいつも、わしの築いた秩序を壊しおって! 諸葛誕め、一族のよしみで少しは大人しくしておればよいものを。……孔明よ、喜ぶな。昭は冷酷だぞ。寿春を囲み、諸葛誕をじわじわと干し殺しにするはずだ。姜維が長安に届くのが先か、一族が滅びるのが先か……勝負だな」
姜維軍は再び祁山を越え、芒水へと進出。対峙するのは、あの宿敵・鄧艾。
鄧艾は、段谷での勝利に奢ることなく、堅固な陣を敷いて姜維を迎え撃つ。
「じ、じ、時間だ。じ、時間を稼げば、寿春は、お、落ちる。き、姜維、お前の負けだ……」
だが、今の姜維には、密偵の中で教育を終え、真の「影の指揮官」へと成長した妻がついていた。彼女は、魏軍の補給路に密偵を紛れ込ませ、司馬昭からの「撤退命令」を偽造して鄧艾の陣を揺さぶる。
「仲達、お前の息子(司馬昭)が寿春に釘付けになっている今、鄧艾を助ける者はいない」
姜維は、かつてないほど鋭く、静かに剣を抜いた。
(チャチャ入れ:司馬懿)
「……ええい、鄧艾! 偽の命令などに騙されるな! 目の前の麒麟を、その手で捻り潰せ! 孔明、お前の姪のやり口は、戦ではなくもはや詐欺ではないか!」
(天の声:諸葛孔明)
「……兵は詭道なり、仲達。お前にだけは言われたくない言葉だな」




