第百五十話:地形の罠、鄧艾の赤面
第百五十話:地形の罠、鄧艾の赤面
執筆:町田 由美
西暦255年、長安近郊。
魏の平西将軍・鄧艾は、自慢の地形分析を駆使し、姜維の背後を断つべく険しい山道を強行軍していた。
「……こ、この道だ。ここを抜ければ、き、姜維の横腹を、食いちぎれる。わ、私の計算に、狂いはない……ッ!」
しかし、彼が「誰も知らない秘密の道」だと思い込んでいたその場所には、既に諸葛氏の息がかかった密偵たちが、一カ月前から「細工」を施していた。
鄧艾が谷底へ差し掛かった瞬間、足元の岩肌が、まるで生き物のように崩れ去った。
「な、ななっ!? い、石が、滑る……!?」
実は、諸葛氏が密偵たちに命じ、岩の隙間に「特殊な潤滑油」と「大量の石鹸の原料」を流し込ませていたのだ。さらに、谷の両側からは、蜀軍の「見習い兵士」たちが、鄧艾を馬鹿にするように大量のコショウを撒き散らす。
「は、はくしょん! ひ、ひーっ! じ、地面が、ぬ、ヌルヌルして、立てぬ……!」
(チャチャ入れ:司馬懿)
「……ああぁぁ! 鄧艾! 何を踊っておるのだ貴様は! 恥を知れ! わしが教えた『地の利』とは、石鹸で滑ることではないわ! 伝統ある魏の将軍が、あんな無様な格好を……孔明、笑うな! 笑うのではない!」
(天の声:諸葛孔明)
「……ククッ、いや、失敬。仲達、お前の秘蔵っ子はなかなか独創的な舞を披露するな。……姪よ、よくやった。『地形を知る者は地形に溺れる』。鄧艾の自尊心をズタズタにする見事な嫌がらせだ」
「……ま、ま、待て! こ、これは、こ、孔明の、呪いか……!」
鄧艾が這いつくばって叫ぶ中、頭上から諸葛氏が冷ややかに見下ろした。
「鄧艾殿、地形ばかり見て、足元の『人災』を忘れるとは。司馬懿殿の教えも、随分と底が浅いようですね」
鄧艾軍がヌルヌルの谷底で右往左往している間に、姜維は悠々と長安の防衛線を突破。
姜維は、背後で起きている「珍劇」を察し、苦笑しながらも槍を振るった。
「……妻を怒らせると、司馬一族よりも恐ろしいな」
(チャチャ入れ:司馬懿)
「……もう見ておれん! 昭よ、あんな滑り芸の達人は放っておけ! 早く、早く姜維を止めろ! このままだとわしの血圧が(死んでるが)持たんわ!」




