第五話「反応熱と、心の距離」
五時間目、化学。
俺のざわついた内心に追い打ちをかけるように、ヤツがやってきた。
「みんな座れーッ!科学の時間だぞーー!!」
声だけで覚醒するレベルのテンション。
実験室に響き渡る、異次元の声量。
そう、問題児教師・モル(あだ名)先生である。
「おいそこ!眠そうな顔してるヤツ!
……いいか? 化学ってのはなァ……恋と同じだ!」
……やっぱ今日も意味がわからない。
「たとえば“反応熱”。
これは物質同士が反応したときに出入りするエネルギーのことだ!
君らの中にもいるだろ? 目が合っただけでポカポカしてくるやつ!
それが“放出反応”。
逆に、なんか一緒にいると、どんどん冷えてく感じ……それが“吸熱反応”だ!」
生徒たちが笑った。
いつもはうるさく先生に絡む綾乃も、今日は欠席でいない。
静かな教室に、モルの声だけが響く。
「化学反応ってのは、“お互いの状態”によって、起きたり起きなかったりする。
だが、一度始まると止まらねぇ! お前らの人生みたいになァ!!」
(……モル、たまに名言ぶっ込んでくるから侮れないんだよな)
ルナを見ると、彼女は教科書を開いたまま、目を伏せていた。
……まるで、なにかを“感じてる”みたいに。