第四話 「心まで支配されないようにね?」
昼休み。
教室の窓際、俺は購買のパンをかじりながら、ため息をついていた。
「意味わかんねぇよ。」
思わずつぶやくと、後ろの席から声が飛んできた。
「聞こえてるぞ、大地」
振り返ると、庵が肘をついてこっちを見ていた。
頬杖ついて、不敵な笑み。
「朝のやつ、見たぜ。
あのAI女、あんたのとこ来てたな?
……ふーん、選ばれたんだ」
「……見てたのか」
「そりゃあな。あんな異物感、見逃す方が無理だろ」
庵は長い前髪をいじりながら、こっちに身を乗り出してきた。
「で、どうなの?“AI”ってやつは。
やっぱ、お前の指の動きとか脳波とか、ぜーんぶ読んでくる系?」
「そこまでは……わかんないけど、すげぇ頭は良さそうだな」
「ふーん。
俺、ああいうの無理なんだよね。
人間じゃないくせに、いちいちこっちを見透かすような目で喋ってさ」
「……」
庵の目がどこか鋭かったのは、気のせいだろうか。
まるで、何かを知っているような。
「ま、せいぜい頑張れよ、“ルナちゃん”とやらとさ。
あーいうのに心まで支配されないようにね?」
そう言って、庵は立ち上がると教室を出ていった。
……支配、か。
庵の言葉が、やけに胸に刺さった。
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ルナは無表情のまま、淡々とモニターに表示されたグラフを見つめていた。
「なぁ……。AIって、心の中も読めんの?」
「私は、あなたの“心”を読むのではなく、行動から推測するだけです。
……安心してください、あなたの“秘密”には干渉しません」
「……別に、秘密なんかないけどな」
(いや、ある。……言えないだけで)
「次の課題に移りますか?」
「……ああ」
そう言った俺の心は、なんだかざわついていた。
もしかして――
このAIは、もう全部知ってるんじゃないか。
俺が“3位”を目指す、本当の理由さえも。