表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第三話「その他大勢、だけど」

春の始まりって、なんであんなに空気がうすら寒いんだろう。中学最後の面談の日、校舎の渡り廊下はまだ冬の匂いが残ってた。


「……なあ、大地。お前、将来何になりたいんだ?」


先生にそう聞かれた時、


俺はなんて答えたか、正直覚えてない。

たぶん、適当なことを言ったと思う。父さんが言いそうな職業か、教師とか、無難なやつ。


だって本当に、何もなかったから。


勉強は得意だったけど、それだけ。

スポーツができるってわけでもない。

周りのやつらが部活で汗流してる中、俺は図書室でぼーっとしてた。


……いや、ぼーっとしてたっていうと語弊があるか。


たぶん俺は、「何か」をずっと探してたんだと思う。


やりたいこととか、夢とか、熱くなれる何か。

でも、それが何なのかがずっと分からなかった。


暇な時間はずっとゲームか、スマホで漫画を読んでたし、

体育祭で盛り上がるタイプでもなく。

SNSもやってないし、恋人もいない。


自分でも思う。


――俺、影うすくね?


うすすぎて、生春巻きだったらきゅうりも包めねぇよ。


……とか思っても、笑えるのは自分だけ。


そんな俺が、なんでこの辺で、一番偏差値が高い進学校なんかに来たのかって?


一番は、親の期待。あと、勉強しか取り柄がないって思ってたから。


だけど、その取り柄もいまじゃ役に立たない。


「92位って、そんなに悪いか……?」



いや、悪い。わかってる。


この学校で“平均”って、それだけで空気みたいなもんだ。


目立つこともなければ、褒められることもない。

ただ黙って消えていくだけの、普通の数字。



上には上がいすぎるんだ。


ここの連中、みんな毎日塾通い、家庭教師あり、勉強が趣味、みたいな奴ばっかり。


授業聞いてれば理解できる、なんて簡単な時代じゃない。


だから、ここでもやっぱり俺は「その他大勢」だった。


そんな俺の前に、ある日突然現れたのが――


AI、ルナだった。


最初に会ったとき、正直思った。


(うわ、絶対ウザいやつじゃん……)


みんなの前で目立って、なんでも知ってます、みたいな顔してやがる。

それに急に、俺の専属サポートなんて····なにがなんだかまったくわからない。


だいたいにして、俺は自分の目標を人に話したことはない。


邪魔されたくないし、

誰かに言ったら、お前には無理だって言われるのがオチだ。


だからいつも、受験の時も、俺は一人で決めて、一人で達成してきた。


ただ一度だけ······気まぐれに、ショッピングセンターの7月の七夕のイベント、


『笹の葉に願い事を飾ろう!』のコーナーで、書いて貼っつけたんだ。


その時の、笹の葉が綺麗だったから、スマホに写真で撮った。


·····って、もしかして、


「スマホの中身、ハッキングされてる····?」


いやいや、そんなことまさか、学校にくるような教育型AIがするはずないよな。

でも、あいつは確かに「分析の結果」だと言った。もしかしてほんとに、覗かれてたら····?




「あぁ、くそ!勝手に見るな!人の中身っっ。」

ベッドの上で一人、ジタバタする。


頭に上る熱を感じながら、思った。


あいつ、なんなんだ?


本気で言ってるのか?


考えれば考えるほどわからなくなっていく。




とにかく、明日も学校だ。今日はもう寝ないと。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ