第二話「目標3位以内」
その日、俺はスマホを取り上げられていた。
理由は、朝起きるのがいつもより10分遅かったから。
夜更かしを心配した母が「スマホがあるからダメなのよ」と言って、没収。
夜は 、勉強してただけなのに。
朝の情報チェックすらできず、登校中の電車では、窓の外をぼんやり眺めるしかなかった。
新学期、進学校の空気はピリついていた。
嶺星学園では、学年順位がすべて。
誰もが無言で教科書を開き、試験対策を始めていた。
そんななか、俺――大地 悠真は、自分の机の上にある“手紙”のようなものに気づく。
『あなたの目標は学年3位以内です。
本日より、専属AI“LUNA”があなたの学習をサポートします。』
……冗談だろ?
戸惑っていると、隣の席から声がした。
「おはようございます、大地さん。昨日はよく眠れましたか?」
そこにいたのは――ルナだった。
「なっ……な、なんでお前がここに……!」
「あなたの目標達成のため、学内許可を得て、同じクラスに配属されました」
まるで当然のことのように言うルナに、周囲がざわつく。
「え、やば……あの子、マジでAIなん?」
「うそ、同じクラス?でもなんで大地だけ?ずるくない?」
ざわめく教室に、ルナは一礼した。
「ご安心ください。皆さんにも平等なサポートプログラムが順次導入されます。ただし、サポート対象は――成績上位を目指す意思のある方に限ります」
ざわっ……
ルナの言葉に、空気が一変した。
目標を、持っているかどうか。
それだけで、選ばれるかどうかが決まる。
「俺……別に、3位になりたいなんて言った覚えないし……」
思わずつぶやいたそのとき、ルナが小さく微笑んだ。
「……けれど、大地さんは、“なれる”人です。私には、それがわかります」
「なにを根拠に……」
「あなたは、他人と自分を比較する癖がある。だけど、自分を見捨てたことは一度もない。
“本当の自分”を、あなたは誰よりも信じている。……そんな人間は、強いです」
「…………」
なにかを言い返そうとしたけど、喉が詰まって出てこなかった。
そして、チャイムが鳴った。
今日から、ルナとの“学年3位”を目指す日々が始まった――