第一話「彼女の名前は、ルナ」
進学校・私立嶺星学園の始業式。
講堂のステージの上で、校長がどこか不思議な笑みを浮かべて言った。
「では、本年度より新たに導入される“学習支援プログラム”の一環として、特別補佐官を紹介します」
そのとき、空気が変わった。
ステージへの階段を上る足音。そして――
彼女は、まっすぐ歩いてきた。
誰よりも整った制服、腰まである銀色のストレートヘア、
背筋を伸ばし、澄ましたままステージに立つと、まるで舞台女優のように口を開いた。
「はじめまして。私は“LUNA”です。皆さんの学習支援を担当する、AIです」
「私は、みなさんの能力向上のために、本国アメリカより特別に派遣されました。これから、みなさんの級友としてともに学びながら、学習への適切なサポートを行います。」
……は?
講堂に一瞬、笑い声が漏れた。
冗談かと思った。演出かとも思った。でも、彼女は――一度も笑わなかった。
冷ややかな眼差しで、生徒全員を見渡しながら、言葉を続けた。
「なお、私は機密プログラムの一部であるため、AIであることを学外に漏らすことは禁止されています。違反した場合、データ接続を即時遮断し、サポートは打ち切られます」
ぞわり、と寒気がした。
この人、本当にAIなのか?
それとも、そういうキャラなのか?
俺――“大地 悠真”は、ただ呆然と見ていた。
始業式が終わって、廊下へ出た俺の前に突然
彼女が歩いてきて、こう言った。
「あなたが“大地”さんですね。あなたの成績、現在92位。目標は、3位以内」
なぜ知っている? 誰にも言っていないのに。
「今日から私は、あなた専属の学習サポートに就きます。……協力は、いただけますか?」
「は、はぁ!? なんで俺なんだよ……!」
彼女は、ほんの少しだけ、笑ったような気がした。
「分析の結果です。」