第三話 能力
1
「え?誰?今の声。」
周りを見渡してもそこにいるのはタタと私だけ。
「びっくりした?」
そう言ってタタはニコッと口角を上げる。
「え?!誰の声今のこんにちはって!」
「まだ気づいてないの?」
タタは「ふふっ」と静かに笑った。
「なんの声?!」
何も分からない。誰かタタ以外の人が近くにいると思うとすごく怖い。心臓の鼓動がさらに速まる。冷や汗が流れる。
「タタ怖いよぉ…怖いよぉ…。」
私はいつの間にか怖くて顔を伏せていた。
「わぁ!ごめんごめん!驚かせちゃったね。この声ね…この子の声だよ!」
私は伏せていた顔を少しだけ起こしてタタの手をみる。タタは目の前にあったチューリップのお花を撫でていた。
「えぇ…。お花…?」
「そうだよ。この子の声だよ。」
そのお花の様子は何一つ変わっていない。ただ一つだけ…そのお花がゆらゆらと動いている。少しだけタタのなでなでに照れているようにも見える。
「ちょっと…やめてよ…。」
「え?!喋った!」
私はパッと顔を起こしてそのお花に顔を近づける。やっぱり照れている。顔があるわけではないけど分かる。少しにやけているようだ。
「え…。すごい。すごいよ!タタ!こんなことできるの?!」
私は興奮してタタに抱きつく。
さっきまでの涙が嘘みたいに引いた。私は完全にワクワクしている。でもそれほどお花が話していることを不思議には感じなかった。昨日から感覚が麻痺している。
「これはどういうことなの?」
「タタはお花に魂を宿して感情を持たせることができるの。その能力を使って百合愛ちゃんの疑問をお花にも聞いてみようってこと!」
「えぇぇぇ!何それ!夢みたい!」
私は立ち上がってフィギュアスケーターみたいにくるくる回る。
「これってどんな花でもいいの?!」
「多分!」
「何回でも?」
「多分!」
「えぇ!じゃあさいっぱいのお花と話してみたい、ユリ!」
私は公園の中をぐるぐると走っていた。走っている私を呼び止めるようにタタが声をかける。
「じゃあさ、そろそろ暗くなってきたから一回お家帰ろ?」
2
「ただいまぁ。」
「おかえりぃ!」
靴を脱いで二階に上がる。
「ねぇねぇ。色んなお花で試してみよう?」
「いいよ!」
私たちはすぐに部屋の中にある全てのお花をカーペットの上に集めた。準備完了。するとタタが腕を伸ばして"儀式"を始める。
「まずは薔薇!そして百合!そして…」
ーーー
「はぁ…はぁ…」
「はぁ…はぁ…」
私とタタは大の字に寝そべった。
「わぁ!ここどこ?」
「誰だよ?!お前!」
「ちょっと…喧嘩しないでよぉ。」
「わぁぁぁんお母さんどこおぉ?」
「うぅぅぅん。眠たいよぉ。」
部屋の中がすごく騒がしい。こんなに部屋の中が騒がしいのは久しぶり?
「ちょ…ちょっとやりすぎたかな…。」
「すごおぉぉぉい!!お、お、お花がみんな話してる!!!」
比喩なんかじゃない。本当に私の目は輝かっていた。タタはなんか疲れてそう、少し小さく見える。
「な、何するんだ!やめてくれぇぇ!!」
「や、やめてよ。」
「うわぁぁぁん!!!」
個性が強すぎる。お花が泣いたり、オドオドしたり、まるで夢の世界のようだ。
「わわぁぁどうしよう!お花が泣いてるよぉ。」
「ちょ、ちょっとまずは百合愛ちゃんが落ち着かないと。」
タタはいつも落ち着いている。そんなタタに私はいつも助けられる。
「そ、そうだよね。みんな大丈夫だよ、落ち着いてねぇ。」
「うわぁぁぁん!」
「やめてくれぇぇぇ!」
「ママぁぁぁぁ!!」
落ち着く様子がない。
「だめだ。落ち着かない。タタ?」
「どうした?」
「一旦魂抜ける?」
「大丈夫だよ!」
タタはもう一度お花たちに手を伸ばす。
「ありがとね。」
私には魂とか何も見えない。たださっきまで元気に動いていたそれらが途端に動かなくなると魂が抜けたことがよく分かる。
「じゃあ一人ずつ見ていこう。まずは…薔薇にしよう!」
タタがもう一度手を伸ばす。さっきよりも疲れて小さく見える。
「はいどうぞ。」
「うわぁっ!なんだ!?誰だ!」
薔薇は元気な男の子のような花だ。気が強そう。
「安心して、私たちは優しい人たちだからね。」
「優しい…ひと?人なのか?」
薔薇のお花の茎がグネッと曲がった。首をかしげているのだろうか。
「ひ、人だよ…。」
「よかった!人かっ!」
怖がられると思って心配したが全然そんなことはなかった。
「で、どうしたのさ?」
「なんでもないよ。じゃあね!」
もうすでにタタは手を伸ばしていた。
「えっ!なんだよそれ!うそだ」
「はい、さようなら。」
私とタタは数秒見つめあった。そして、大笑いした。
「ははぁはははぁ!楽しい!お花と話すの楽しい!」
「ほんとだねぇ!楽しい…!」
「これもっとやりたい!」
私とタタが爆笑しながら話しているとタタは冷静に時計を見た。
「でももう七時だよ?そろそろご飯呼ばれるんじゃない?」
「ご飯よぉぉ!!」
丁度お母さんの声が聞こえてきた。
「はぁい!今行く!」
「タタ、今日は少し疲れてそうだからベッドで寝ててもいいよ!」
「ありがとう!」
私はそう言って部屋の扉を閉めた。
2
今日の夜ご飯はトルティーア。すでに机の上には準備が整っていた。
「いただきます!」
「いただきます!」
二人で一緒に手を合わせる。
「今日はどこに行ってたの?」
お母さんが問いかける。
「今日はお花公園まで!」
「何したのさ?」
珍しい。いつもは学校のこととか勉強のことについて聞いてくるのに今日はついさっきの遊びのこと。
「お花みてたよ!」
「あら、そうなの?お花公園で一人で遊んでたの?」
「一人だよ?ブランコで遊んだりお花を見たりしてたよ…。」
「ふぅん。そうなんだぁ…。」
今日のお母さんなんかいつもと違う。何か探っている感じ。まさかタタの存在がバレたのだろうか。私の頬に汗が通る。
「じゃあさ今日の朝、誰と話していたの?」
私の頭からドバッと汗が吹き出る。体には逆らえない。汗をかかないようにするとより汗が出る。
「ひ、ひとりご、と、と…だよ。」
「なんか、焦ってる?」
まずい。頭の中がごっちゃになる。今すぐ逃げたい。自分のせいでタタがいなくなることを考えたら息が苦しくなってきた。
「冗談だよ!なんか独り言言ってるユリ見てたら可愛くて、ちょっとからかいたかった。バレるの恥ずかしかったのか?」
そう言ってお母さんは「ハハハハハ!」と大笑いした。
(はぁ…良かった…。)
私の頭からは一気に汗が引いた。
ーーー
「ごちそうさま!」
「はい!部屋では独り言言わないように!」
お母さんは悪そうに笑った。
「はいはい、冗談はやめてよぉ。」
私は食器を台所に持っていく。そして自分の部屋に戻る。
「トタトタトタ」
私はいつもより軽快に階段を上る。
「タタ~タタ~」
謎な歌も歌う。
「タタ~お待たせぇ。」
私はそう言って自分の部屋の扉を開ける。
「ガチャ」
「え…」
扉の向こう側、真ん中に何かが転んでいた。
「え…どう…した…の…?」
そこにはタタがいつもより小さくなって倒れていた。しかも頭のお花が萎れていた。
「タタ!?どうしたの!」
すぐにタタの元に駆け寄る。
「大丈夫?!大丈夫?!」
タタの体を前後に揺する。
するとタタは微かに目を開けた。
「み…みず…。」
「水?!今すぐ持ってくる!」
私は急いで部屋から出て一階に降りた。そして冷蔵庫を開ける。
「ちょっとお水持ってくね!」
「お水?いいけど。」
お母さんには少し不思議がられたがそんなの今は関係ない。急いで部屋に戻ってお水を渡さなきゃいけない。
「バタンっ」
「タタ!お水だよ!」
キャップを開けてペットボトルの口をタタの口に持っていく。タタは「ゴクゴク」水を飲んだ。タタはみるみる元気になる。頭のお花も元気になる。
「ゴクゴク」
タタは丸々一本飲み干した。タタがゆっくり起き上がる。
「大丈夫?!」
「う、うん。だ、だい…じょうぶ、だよ。」
「じゃあ一旦休もう。ごめんね無理させて。」
そう言って私はタタをおぶろうとする。しかし私にそんな力はない。
「あ、ありがとう…。でもだい、じょうぶ…だよ。」
タタは自らベッドに横たわる。
「ごめんね。今日はもうゆっくり寝ていいよ。」
「おやすみ。」
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