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聖植物園日誌  作者: 小達出みかん


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ツンツンツンツンデレ、攻略70%

 そこへあろうことかサチが食堂へ入ってきた。芹花は切望的な顔で振りむいた。


「ごめんなさい、今日の夕食は中止です…」


 その鬼気迫る表情に、サチは一歩退いた。


「…どうしたんです?」


「どうもしてないです、あっ、それはっ!」


 サチは叫ぶ芹花を無視してオーブンを覗き込んだ。


「これは…?」


 サチは訝しげな顔で芹花に聞いた。芹花は屈辱に震えながら説明をした。


「焦げたんですよッ!何でか、わからないけど…」


「これ高温モードになってますよ」


 サチはオーブンのパネルを指差して言った。


「えっ!?」


 芹花は慌てて立ち上がってパネルを見た。英語表示だったので見落としていた。


「あぁ~~~~~~!!」


 気がついた芹花は再びへなへなと座り込んだ。


「…こんな初歩的なミスで食材を無駄に…とにかく、コレはもう無理なんで、今夜のご飯は…ご飯は…」


 またプロテインだ。あのまずいプロテイン。あまりのことに涙が出そうになったので芹花はぎゅっと目を閉じた。その様子をじっとサチは観察していた。


「ご飯は、なしです…って、何見てるんです!?」


「いえ…何をそんなに怒っているんだろうと思って」


 その言葉に芹花はひゅっと息を吸い込んだ。理由は山ほどある。


「何でって!せっかく、せっかく!!久々にまともなご飯を食べれると思ったのに…こんな失敗…食材も無駄になって…い、一緒に食べる予定だったのに…うぅう…」


「…泣いてます?」


「泣いてないです!」


 芹花は反論した。が、そんな彼女をよそにサチはオーブンから皿を取り出した。


「そんなに残念なら、食べれば良いじゃありませんか」


「ここまで焦げたのなんて、食べれるわけが…って、やめてくださいッ」


 わめく芹花を尻目に、サチはそれを一口食べた。


「…別に、問題ないですよ」


「えっ、そんな」


 それを見て芹花もあわてて口にしてみたが、苦い焦げの味が口いっぱいに広がった。


「まずい!苦いしぱさぱさ。食べれたもんじゃないです」


「大丈夫です。私は、味を感じないので」


 その一言に、芹花は固まった。


「それは、どういう…?」


「そのままの意味です。味覚がないので」


「じゃあ、つまり、どんなに焦げてても、まずくても…」


「関係ないですね」


 ずっとプロテインで事足りたのも、食べ物に全く興味がないのもそのせいだったのか。芹花は今更ながら腑に落ちた。サチは食べ終えた皿を黙々と洗い始めた。


「あっ、やりますよ、私」


「いえ、自分が食べたものなので」


 なんとなく2人で片付けをし、その日はお開きになった。







 灰となったデンプンは、サチの口の中にパサパサと広がったものの何の味も残さなかった。これが自分の通常だ。


(ならば、なぜ…?)


 考えまいとしても、あのミント水の事が頭から離れなかった。なぜ、あの水だけ味がしたのか。そしてなぜ、懐かしさを感じたのか。


 もしや自分の舌が機能を取り戻したのだろうか?ふとそう思ったサチは黒焦げのラザニアを口にしてみたのだった。依然として、自分の舌は麻痺したままだという事がわかったが、ミント水への謎はさらに深まった。


 あの水を、自分はどこかで飲んだことがあるのだろうか?その記憶に舌が反応したのだろうか?だが考えをめぐらせていると、次第に頭の中にもやがかかったようになった。


(ダメだ、これ以上は無理だ)


 遠い記憶を思い出そうとすると、サチの頭は動作不良を起こす。どうしても先に進めないのだ。サチは忌々しくなって頭を振った。


(こんな事に時間を割いている暇はない)


 あの芹花が来てから、調子の狂うことばかりだ。


(彼女も、おとなしく仕事だけしてくれればいいのに。私のように)


 先の事を考え、サチは重苦しいため息をついた。






「おはようございます、サチさん!朝ごはんですよ!」


 朝一番、研究室に顔を出して芹花は意気揚々と言った。


「あの、私は…」


 サチは何かいいかけたが、芹花は気がつかずバタバタと2階へと戻ってしまった。


(仕方がない)


 サチは重い腰を上げた。

 食堂のテーブルにはリネンのクロスが敷かれ、その上に薄いホットーケーキとスープ、ガラスのコップと水差しが並んでいた。その光景はサチを心をざわつかせた。こんな風にものを食べる行為は、自分には相容れない。だが芹花はにこにことサチに勧めた。


「今日はうまくできたんです。さあ、どうぞ!」


 …ここで断ったら、きっと面倒なことになる。そう思ったサチはしぶしぶ腰を下ろした。思えば昨日、あの黒こげを口にしてしまったのが良くなかった。サチとしてはただ、自分の舌を確かめたるために食べたのだったが…


「今日はいいお天気ですねぇ」


 芹花が唐突にそう言った。


「風も少ないし、種の植え付けにはもってこい。でも最初は温室で試すんでしたっけ?」


 仕事の話を振られたので、サチはまじめに答えた。


「そうです。まずは温室内の制御室で植えて様子を見ましょう。畑はそれからです」


「小松菜とかはよくできてたけど…あのチャモロコシは、ぶっちゃけどうですか?うまくいくとおもいます?」


「…難しいかもしれません。前回の木も上手くいきませんでしたからね」


「でも今回はトウモロコシだし、なんとかならないかなぁ…」


 サチは顎に手をあてて考えた。


「サンドストーム・トウモロコシは非常に強いですから…可能性は上がるとは思いますが」


「成功したら、あの松田さんって人、すごい研究者になりますね」


 芹花は感心したようにうなずいた。この大仕事に芹花は乗り気だった。


 



 チャモロコシを植えるため、2人は温室に向かった。サチの作業着姿を始めて見たので、芹花は目を奪われていた。意外にも、似合っていたからだ。ざっくりとくくられた亜麻色の髪と褐色の肌に、セージグリーンのツナギが映える。


「…と、いうことです。使い方、わかりましたか?」


「あっ、はい!」


 サチに見とれていた芹花は慌てて返事をした。


「本当に聞いてましたか?」


「聞いてましたって!説明、ありがとうございます。じゃ、作業にかかりましょっか」


 芹花は持ってきた箱を取り出した。パカリとあけると、一つ一つ固定された種が丁寧に並んでいた。


「けっこうありますね、にぃ、しぃ、ろ…20個ある!つまり一九回失敗できるって事か」


「…一九回で済めばいいほうですよ」


 芹花はサチを見てへへっと笑った。


「…なんです?」


 サチが眉をひそめたので、芹花は笑いながら説明した。


「えっと、一緒に仕事してるのがなんか楽しくて。ほら、いつも一人だったから」


 サチはふんとそっぽを向いた。


「そんな事が楽しいなんて、理解できませんね」



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