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飛行戦艦ウォースパイト  作者: 宮秋清火
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魔導産業革命時代に生きる二人の若き軍人の物語

 当小説をご覧いただき、誠にありがとうございます。素人ながらに執筆した作品ではございますが、最後まで御覧いただければ幸いです。


◇アネット・スピアーズ

 地元の空軍学校の訓練兵で、十六歳。癖の強い黒髪に、幼くも端正な顔立ちをしており、豊かな表情がなんとも愛らしい。小柄な体躯に、深緑色の詰襟の兵服を纏う。



◇クロム・オルティス

 大人びた口調をしており、丸眼鏡を掛けている。

 アネットの関係は古い幼馴染で、歳は彼女の一つ上の十七である。


 ヴァレリアン共和国、レイクウッド地区は世界でも、三本の指に入るほどの大魔導工業地帯だ。

 けたたましい機械音を響かせながら、大量の煤煙を吐いているレンガ造りの魔導工場群。

 灰色のスモッグが太陽の光を暈し、上空には無数の飛行商船が飛んでいる。

 

 石畳の街道を、燕尾服を着た資本家や、顔中炭だらけの工場作業員たちが、忙しなく行き交う。

 彼らの殆どは、革製のマスクやゴーグルを着用していた。建物の外に出ると、強烈な大気汚染によって、目が痛くなり、息を吸うと咳が止まらなくなるからだ。


 しかし、そんなことはもう慣れっこという具合に、身体を保全する物を全く身に着けず、混雑した街道をぴょんぴょこ飛び跳ねながら進む、一人の少女がいた。

 少女は、癖の強い黒髪に、幼くも端正な顔立ちをしており、豊かな表情がなんとも愛らしい。小柄な体躯に、深緑色の詰襟の兵服を纏う。

 地元の空軍学校の訓練兵で、歳は十六。

 名は、アネットという。


「クロム、早く行こうよ」


 アネットは唐突に足を止めると、後ろを走る少年を急かした。それに対して少年は、息も絶え絶えになりながら「そう急かさないで下さい」と答える。

 クロムという名の、この少年は、妙に大人びた所作だ。アネットとの関係は古い幼馴染で、歳は彼女の一つ上の十七である。丸眼鏡を掛け、兵服と軍靴はアネットのそれよりもよく手入れがなされている。


「早く早く!」

「ちょっと……待ってくださ――」


 不意に、二人を大きな影が飲みこんだ。

 驚いた二人が天を仰ぐと、そこには巨大な艦影が三つ。


「見て! 空軍の飛行戦艦だよ!」 


 分厚い装甲の船体に、片舷数百門の大砲を搭載した、三隻の飛行戦艦は、悠々と大空を飛ぶ。

 五万トン以上ある巨体は、まるで大空を泳ぐ鯨のようだ。付近を雑多に飛んでいる飛行商船の群れは、飛行戦艦が近づくと、小魚のように散開して進路を譲った。

 

 あの三匹の鉄鯨の名は、トラファルガー級飛行戦艦、一番艦トラファルガー。

 同級、ネプチューンとセンチュリオン。

 トラファルガー級の三隻は、世界最大重量を誇る共和国空軍の主力飛行戦艦だ。中でも一番艦トラファルガーは、共和国空軍の象徴的存在として、広く国民に親しまれている。


「かっこいいー!」

 

 アネットは目をキラキラ輝かせながら、無邪気にはしゃいだ。

 街道の人々も所々に歩みを止め、三匹の大鯨の見せる猛々しい姿に、歓喜の声を上げる。

 まさしく英雄の出陣といった様相だ。しかしその様を見て、ただ一人、クロムだけは苦々しい顔。


「クロム、どうしたの?」

「あの空中艦隊の任務はなんだと思いますか?」

「そんなことわかんないよ」


 クロムは一つため息を吐くと、唇を噛む。


「おそらく、敵主要都市の無差別爆撃でしょう」


 トラファルガー級の三隻が所属する共和国第七空中艦隊の母港は、ここから北西約五十キロにあるリーズ空軍基地。

 そして、三隻は北西からやってきて、まっすぐ南東の方角に向かって行った。

 地図上では南東に、敵国であるエーデルシュタイン帝国の主要都市ロートリンゲンがある。

 つまり、その方角にあの三隻が向かって行ったということは、そういうことなのだろう。

 これからあの三隻は、敵の主要都市に対して絨毯爆撃を敢行する。

 敵兵ではなく、敵国の民家や工場に爆弾の雨を降らせ、何千、何万という無辜の民を焼き殺しに行く。

 

 クロムは、悲憤を込めて呟いた。


「まったく、だから戦争は嫌いなんです」



            ×    ×    ×    ×



 源暦一二〇〇年代の前半、共和国の発明家ランド・モンローによって魔導機関が発明された。

 魔導機関とは、魔石の有する魔力を火力などのエネルギーに変換し、それを用いて蒸気を発生させ、その蒸気を羽根車に当て、機械的動力に変換する装置のことである。

 この魔導機関の登場は、世界の産業構造を劇的に変革した。


 魔導機関を動力として空を飛ぶ飛行船が登場し、人や物の移動が効率的に行えるようになった。

 工場制機械工業が成立し、列強国の主要な田園地帯はわずか数年足らずで、みな魔導工場地帯に様変わりした。魔導工場を所有し、労働者を雇って利潤を得る資本家が現れ、資本主義が開花した。


――魔導技術革命の時代である。


 そうした時代の流れは、人々の生活を大層便利にしたが、一方で、世界を混沌の渦にも引き込んだ。

 資本家たちが競って飛行船や魔導工場を建造したおかげで、魔導機関を製造するのに必要な魔石が、世界規模で不足しはじめたのだ。

 深刻な魔石不足により、一時は火炎魔石の取引価格が、一グラム=七七〇ダカットを記録したほどである。

 

 そうした経緯から、列強各国はこぞって魔石鉱山地帯の植民地開拓を推し進めた。

 またその過程の中で、列強国間での植民地争奪戦争が幾度となく勃発した。

 

 薄っぺらい大義を掲げて、植民地という金の生る木を奪い合う争い。

 或いは、命を国益という名の資本に換価するための国家行為。

 

 五年前から続いている、ヴァレリアン共和国と対岸国エーデルシュタイン帝国との戦争、刃栄戦争も、そんな欲にまみれた戦の一つである。


 お忙しい中、最後までご拝読いただき誠にありがとうございました。


 もし、少しでも面白いと思っていただけましたのならば、ブックマーク、ご評価のほどをいただけますと、幸いです。執筆のモチベーション維持のため、なによりも励みになります。

 また、ご感想などがございましたら、是非ともコメントなどを頂きたく存じます。頂いたコメントは、今後の執筆に生かしたいと考えております。



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