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世界に余命宣告を  作者: mkn
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第一話 終わりの始まり


 冷たい風が部屋の中に入り、セラの髪を揺らす。

ふと、そこから覚えの無い魔力が感じられる事に気付いた。

セラの住む街は小さいとは言え、偶に街の住人以外の人もやって来る為、そこまで珍しい事では無い。

しかし、その時は何か不安な気持ちがよぎり顔を上げた。

その日から、全てが始まった。



同日 妖族連邦軍事司令部


「サキ司令長官、獣族王国からと思われる通信を確認しました。曰く、『神の名のもとに宣戦を布告する。正義の戦いにて汝等を駆逐せん。』との事です。本気だと思いますか?」

通信管理官から、王国より届いた文章を伝えられる

それに対しサキは笑いながら返答した。

「随分短い布告文だな、二千年ぶりにいきなり戦争とは、それも神の名の下だと?」

「はい、その様ですが、」

「神とはどの神か、神族の話かな」

「返答しかねます。」

明らかに緊張感のない司令長官に眉をひそめる者は誰もいない。

それだけこの宣戦布告が信じられないものであった。

サキは大きな声で命令する。

「この島の戦力の半数を港へ、3割を予備戦力として残し、2割を各町の避難誘導に当たらせろ!」

「「は!」」

まさか軍を動かすと思っていなかった部下たちは一瞬動揺するも、それを顔に出すことなく、忠実に実行する。

サキは大抵細かい指示を出す事は無いので、個々の判断で適切な部隊を配置していく。

初めて戦闘配置についたとは思えないほど問題なく進められていき、五分もたたずに配置命令は発令されていた。

問題があるとしたら、サキが軍を動かした、その事自体にあるだろう。

ここ何十年も軍は国民から冷たい目線が向けられていた。

「無駄飯ぐらい」それが軍に対する評価だったからだ。

その為か、軍人に対して侮辱する態度や、舐めた行動をとる者が多々いた。

前回の戦争から二千年たっている。

軍部の風当たりも厳しく予算もギリギリまで削られていた。

そんな中で軍に問題が起こったらこれ以上の仕打ちを受ける事となる。

本来なら動員など、事実確認をするまではとても出来ない。

しかし、サキは常識外れの人物だった。

そもそも、今どき警察でもなく、無駄飯ぐらいと言われる軍に入ろうとする時点でまともな人間は少ない。

そしてサキは、その最先端を行く人物であった。

各地を周って素質のある人を見つけては軍に加入させているような、自由奔走で、人望のある人物。

サキ自体、性格の良さだけでなく、その実力を買われていた。

サキはSからFにランク分けされる軍独自の戦闘力評価で、Aランクにあたる。

SとFがほぼ例外といえる存在のため、現実的には最高戦力と呼ばれるに値する力を持っていた。

魔力の大きさだけで言えばCランクが人口の80%をしめ、Aランクとなると人口の1%に満たない。

Cランク100人でAランク1人と拮抗する軍事的戦闘力を持つとされる為、隔絶された力を持っていることは言うまでもない。

その実力と、性格の明かるさで周りを魅了し、次々と有望な人物をスカウトしていた。

サキのスカウトした人物は、どれもBランクを超える。

その為、サキに忠実かつ、強力な軍隊は、妖族中枢でも無視できない程の影響力を持っていた。

だからこそ、本大陸の司令部に確認することなく、島司令部の独断で行動する事ができたのだ。

今回の状況では、それにより大きく事態を好転させる事が出来たのだった。


1時間後、命令を出したサキ自身も驚かせる事態となった。

「報告します。既に獣族との戦闘を確認。圧倒的な戦力差により劣勢、既に戦線放棄して、遅滞戦闘に移行しています。」

「え?マジで戦闘してるの?」

「はい、そのようです。確実に敵対行動しており、獣族であることも確認しています。いかがなさいますか?」

サキは一瞬困惑するも、直ぐに命令を下した。

「連邦政府まで伝えてあるな?」

「はい、既に」

「分かった。では船をなんとしてでもかき集め、住人を避難させろ。私はこの島を放棄するか前線で戦闘に加わりながら確認するから、あと細かい所は副司令に一任するよ。」

「…了解です。」

面倒事を押し付け、サキは司令部を飛び出した。

多分副司令官も分かっているだろうが、まぁ、上手くやるだろう。

そもそも取れる選択肢は殆どなく、正直細かく調整できる有能な人物なら役職は関係無く誰でも良かった。

そして、戦線で指揮するならサキに任せるのが一番であることも事実であった。

司令部から出たサキは全力で前線に出る。

苦戦している味方の前に飛び出すと、全ての敵の頭を吹き飛ばし、圧倒的な速度で敵を殲滅した。

「みんなは大丈夫かい?」

「えぇ、私達は、流石司令官です。それより仕事は大丈夫なんですか?」

「もちろん、丸投げしたからね」

サキの事をよく知る直属の部下はその場にいた人達に同情しつつ、来てくれた事に安堵していた。

「それで?状況は、」

サキとしては司令部付部隊が苦戦している事の方が驚きであった。

そこらの部隊なら倍の人数かいても余裕で勝てると評価していたからだ。

部隊長が苦々しい顔をして答えた。

「黒い筒に魔力を込めることで魔力が拡散するのを防ぎ、威力を増大させているようで、予想以上に危険です。銃と言うもののようですが」

「魔導弾を収縮させているみたいだね。」

サキは銃を手に取り、構造を把握した。

「簡単な仕組みだが、作れるかと言われるとちょっと、分かんないな」

「サンプルとしていくつか持ち帰りますか?」

「ええ、お願い。」

戦争に突然なった訳で、連邦は準備も何もしていない。

武器を使わない事がほとんどで、使ったとしても、近接戦闘用の物のみな為、戦争の仕方は相手から学ぶしかなかった。

その事に悔しさを覚えつつ、これからの事に思考を切り替えた。

今考えるべきは上手い撤退の仕方だ。

「住民の方はどうなっている?」

「順次行っていますが、間に合っていません。」

「そうか、私は港まで行くから、誘導だけ任せた。極力戦闘は行うな。それと、やつらを殺害する方法は分かっているな?」

「はい、脳機関部の破壊ですよね。」

「ああ、殺したつもりで足をすくわれる事の無いようにな。」

「「は!!」」

サキはいくつかの確認と命令を行うと、港へ向けて走りだした。



同時刻 獣族軍第一先駆小隊


 小隊長であるライは浸透作戦を抜かりなく進める事に成功していた。

任されたのは港から遠く、かつ島の中心から離れた所にある地域の街、失敗する事はまずない。

妖族連邦に対して宣戦布告してから既に1時間が経とうとしていたが、未だ組織立った応戦すら確認されていなかった。

しかし、それも仕方のないことだと思った。

何せ昨日までは国交どころか民間レベルの交わりすら無い国が急に宣戦布告と同時に侵攻を開始したのだから。

中央では現地警備隊なり、警察なりの戦闘があるかもしれないが、敵連邦政府中枢が判断を下し、軍を送るまでの時間的猶予は十分にある。

二千年の間に平和ボケでもしたのか、獣族との唯一の通路があるこの島にすら、軍は殆ど居ないのだから。

敵が脅威になるような反応を示してくるとは考えづらかった。

先駆部隊の目標は、この少し大きい程度の島を制圧し、妖族殲滅への橋頭堡とする事、あくまで第一段階ではあるが、余りにも容易に思えた。

ふと、予定に無いはずの前方の街に気が付き、植物と言うものをまじまじの見つめている部下に声をかける。

鬼族の国には無いため、珍しさから気になるのだろうが、軍務途中に好奇心のまま動くのは流石に出来ないと思い、声をかける。

「珍しいのは分かるが、これから嫌となるほど見ることになるんだ。そんなに見ていても仕方がないぞ。それより、目的の街までの道に小さな街があるみたいだから、適当に制圧射撃食らわせてから通過する。気楽にしてても良いが、構えておけよ。」

「「は!」」

小隊は気持ちを切り替え、職務に集中する。

部下の切り替えの速さに安心し、爆撃魔法を銃に込めた。

草むらから少し頭を出して街に狙いを定める。

魔力に反応する敵が居ないのを確認すると、ゆっくりと照準を合わせる。

「各自自分の位置の直線上の建物を狙え、構え、撃て!!」



 セラは魔力反応が増大していることに直前で気づいた。

何が起こっているのか分かった訳では無いが、何か悪いことが起こっているという事に、本能的に理解した。

とっさに伏せ、防御魔法を展開する。

その動作が終わるかどうかと言った、その瞬間、私の住む街に爆撃魔法が降り注いだ。

爆音が響く。

家の外にいた人は術弾が当たって弾け飛び、中にいた人は吹き飛んだ家の下敷きになった。

防御魔法を使い慣れてない私の防御は、瓦礫の重さに耐えられず、一瞬で砕かれた。体が瓦礫の下敷きとなる。

「うぅ、」

声にならない音が口から漏れでる。

外に助かった人はいるのだろうか、撃って来た人達はこっちに来るのだろうか、

自分は、、 みんなは、、

撃って来た人が来るのを恐れ、動かずに息を潜めていた。

しかし、来るような様子は無い。

這って出ようとして、身体が瓦礫に押さえつけられている事に気づいた。

ハッっという息づかいと共に背中から瓦礫に向けて、全力で魔力波を放つ。

吹き飛ばすつもりで放ったがそれに至らず、軽く浮かび上がるだけにとどまった。

それでも、その身体から離れたその瞬間を逃さず、転がり外に出た。

息を大きく吸い、小さな達成感と安心感で空を見上げた。

しかし、落ち着いている場合で無いことに気が付き起き上がる。

「みんなは!? うっ、酷い」

瓦礫が広がり、ちらほらと燃えているのも見える。

「誰かー、生きている人はいませんかー!」

瓦礫の下敷きになっているだけなら、まだ生きている人もいるはず。

どこもかしこも瓦礫だらけで、どこの瓦礫からどけていけばいいのか、それすら迷う。

その時少し後ろから魔力反応があることに気がついた。

「誰か、大丈夫で 」

大丈夫ですかと言いかけて気づいた。この魔力波形、敵だ。

急いで瓦礫で姿を隠した。


「魔力反応だ、生きている人がいる。」

「声もしたぞ、探せ」


少し遠くから声が聞える。

外に出る時に魔力波を放ったのが仇になったようだった。

声が段々近づいてくる。


「殺すなよ、捕らえろ」

「「は!」」


魔力を完全に隠す練習なんてしていない。

相手はプロだ、いつ気づかれてもおかしくなかった。

少しずつ、這って隠れながら逃げる。

鼓動の音さえも隠したいそう思った。

もう少しで、もう少し、森に逃げ込める。

あと少しだから、気づかないで。

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