表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日の風に・中世心火編  作者: 風城国子智
第三章 君を聴す風
53/60

3-14

 心の痛みを抱いて、部屋を出る。


禎理ていり!」


 その禎理の右腕を強く引いたのは、エクサだった。


「見たぞ」


 エクサの言葉に、苦い思いが広がる。エクサを、『自然の理』を破ることに罪悪感を覚えず、禎理より好奇心旺盛なエクサを、この事件に巻き込みたくはなかった。


「あの羽の生えた奴、『天の輩』だろ?」


 だが。禎理の後悔を知ってか知らずか、一部始終を見ていたらしいエクサは禎理に次々と問いを浴びせる。天の輩は、普通の人間には不可視のはずだが、おそらくエクサは、自分の魔力を用いて見ることができるようにしているのだろう。


「何で、『天の輩』が地上界に居るんだ?」


 好奇に満ちたエクサの視線を、外す。教えては、いけない。口が裂けても、事情を話すわけにはいかない。天空神のことも、『力有る石』のことも、珮理はいりと珮理に似た女性のことも、全て。教えれば、今度はエクサが命を狙われる。だから。エクサが掴んでいた右腕も、半ば無理矢理エクサから引き外すと、禎理はエクサを突き放すように、その場を離れた。


「何で、教えてくれないんだ?」


 拗ねたようなエクサの言葉を、背後に聞きながら。




 その夜。


「禎理。ちょっと来てくれ!」


 残業をしていた禎理を呼んだのは、平静な顔を崩した九七一くない。何かあった。禎理は胸をざわつかせながら、九七一の後に続いた。


 九七一が禎理を連れて行ったのは、エクサに宛てがわれた部屋。小さいが清潔なその部屋の、大きなベッドの上で、エクサが苦しそうに呻いていた。


「急に高熱が出て」


 九七一の言葉を聞きながら、ベッドに近付く。禎理との対決をエクサに見られたことに気付いた『天の輩』が、エクサを消そうとしているのか? いや、この呻き声と高熱は。そう、判断するなり、禎理はエクサの周辺を仔細に観察した。……あった。枕と敷布の間で、『力有る石』が禍々しい光を放っているのが、見えた。


 その『石』を、巾着袋の中に入れる前に、呻き声が小さくなったエクサに尋ねる。


「この『石』、どうしたの?」


「どうしたって」


 禎理の言葉に、エクサは怪訝そうな顔をした。


「禎理が呉れたんじゃないか。『天の輩』に関係があるって」


 エクサの言葉に、怒りが広がる。この『石』をエクサに渡したのは、おそらく。


 『石』を巾着袋にしまうなり、禎理は猛然と、エクサの部屋を飛び出した。行く、先は。


「あら、よく此処が分かったわね」


 昼に彼女を隠したのと同じ小部屋で、再び『珮理に似た女性』と対峙する。今度は禎理は、腰の短剣を抜いて女性の前に突き付けた。だが。……やはり、できない。怒りは有るが、それでも、珮理にこれほど似た女性を、禎理は殺すことができなかった。


「そう」


 不意に、女性が禎理の肩を押す。為す術も無く、禎理は床に倒された。その禎理の傍に、女性が膝をつく。次に禎理を襲ったのは、首筋の冷たい感覚だった。このまま。首に絡む冷たい指に、目を閉じる。このまま、この珮理に似た女性に殺されれば、正体不明の自分の苦しみも、収まるのだろうか……?


「禎理から離れろ!」


 禎理が意識を失いかけた、正にその時。エクサの鋭い声と共に、エクサの得意魔法である光の爆発が部屋中を襲う。だが。光が収まった時、床に頽れたのは、エクサだった。


「エクサ!」


 遅れてやって来た九七一が、エクサを助け起こす。エクサの胸が紅く濡れているのが、禎理の位置からでもはっきりと、見えた。……血の付いた短刀を持って平然と構えている、女性の姿も。


「また、邪魔するのね」


 再び頽れるエクサに、女性は平然と言い放つ。


「私の邪魔をするのなら、死を覚悟することね」


 飛びかかろうとした九七一に、女性はにこりと微笑んだ。


 させない。一息で、床に立つ。これ以上、エクサも、九七一も、そして天楚てんそで待つ、大切な人々も、殺させるわけにはいかない! だから。禎理は跳ね起きるなり、短刀を九七一に向けた女性の、華奢な背中に、自分の短剣を振り下ろした。


「……」


 女性の口から、叫び声は上がらなかった。ただ静かに禎理の方を振り向き、婉然と微笑んだだけだった。


「貴方は、兄だけじゃなく、実の姉も殺すのね」


 そう言って、女性は禎理の腕の中に頽れる。


 珮理に似た女性が呟いた、最期の言葉だけが、禎理の耳にいつまでも響いて、いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ