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ほぼ一日掛けて、天楚市内を巡り、『石』を集める。
「これで、市内には『石』は落ちてないわね」
夕刻に体が発した言葉を、禎理は奇妙な達成感と共に聞いた。
禎理の胸には、赤黒く染まった布で作った巾着袋。袋を縛る紐を長くして、禎理の首に掛かるようにしてある。この袋の中に、拾った『力有る石』が全て入っている。袋が赤黒く染まっている理由は、禎理の血で染めたから。
「『石』を抑えておくのには、『担い手』か『担い手の素質を持つ者』の血が良いの」
体の言葉に従い、禎理は自分の指を短剣で傷付け、袋を染めた。
「血以外の体液でも良いんだけどね」
「じゃあ禎理が天楚中にマーキングすれば、『石』の力は抑えられるわけだ」
九七一の言葉に、口をぽかんと開けてしまう。そんな恥ずかしいことは、無理だ。
だが。
「まだ『石』の匂いがする」
次の九七一の言葉に、禎理の背に緊張が走る。市内にある『力有る石』は全て拾った筈ではなかったのか。
「空気が、臭い」
「そうね」
天楚を吹き渡る風の中に、微かだが『石』の粒子が隠れているような気がする。九七一と体は違う言葉でそう、禎理に告げた。
「『病気』になるほどではないんだけど、何ていうか、『気力』を失わせる、感じかしら?」
それならば、黒犬の魔物である九七一が言う所の『マーキング』が必要になる。恥ずかしいが、必要ならば。禎理は思わず目を瞑った。
「でも、何処に置かれているのかしら?」
体の言葉に、天楚の地理を思い浮かべて考える。冬の時期、天楚に吹く風は大抵北風だ。天楚市の北側にあるのは、墓地と郊外の村の他には、小さいが岩だらけの丘、だけだ。
「おそらくそこね」
少し唸った体が、自分の判断を述べる。小さい丘なら、行けば『石』が何処にあるかすぐに分かるだろう。体の言葉に、禎理はこくんと頷いた。どちらにしろ、天楚からは少し離れなければならないだろう。禎理が抑えているとはいえ、『石』がどのように禎理にしっぺ返しを喰らわせるか、分かったものではない。それに。
「六角郷にも、有るかもしれない」
天楚市内と同じ病が流行っている六角郷にも、行く必要がある。『力有る石』を滅する為には『担い手』と『石』と『石の場』が必要だ。『担い手』については、『担い手の素質を持つ者』禎理が居るので、『力』を持つ風神さえ居れば大丈夫だ。しかし欠片となっている『石』は、欠片を一つ残さず全て集めないと、風神が居ても滅することはできない。
「まあ、とりあえず明日だな」
暮れ行く夕日を見上げ呟く九七一に、禎理もこくんと頷いた。
本当は、気になる事が、一つ、あった。……昼間見たあの影は、本当に、珮理さん、だったのだろうか?
しかし、それを確かめるには、今の禎理は疲れ過ぎて、いた。




