3-5
幾つも並んだ土盛りに、胸の支えが再び動く。
「もう泣かないんじゃなかったのか、禎理」
思わずしゃくり上げた禎理の頭上から、気遣わしげな声が降って来た。
そっと、顔を上げる。禎理を見詰めていた兄、一の瞳も深い涙で濡れていた。
「さあ、もうここから去る時間だ」
その濡れた瞳のまま、兄は禎理の肩をそっと掴んで後ろに引く。不意に、兄は禎理をその大きな身体に庇うように抱き締めた。
そして。
「兄者?」
兄の思わぬ行動に戸惑う禎理の目の前で、兄の大柄な身体が傾ぐ。慌てて兄の身体を支えようとした禎理の指に絡んだのは、生温かい液体の感覚。
「兄者!」
禎理に凭れ掛かるようにずるずると頽れる兄の背中には、赤い染みが広がっていた。
「兄者!」
はっとして、飛び起きる。だが禎理の目の前にあったのは、灰になった焚火の跡だけ。
「夢、か」
すっかり明るくなった洞窟の中で、居住まいを正す。
しかし、……おかしい。夢を思い出し、首を捻る。兄も、流行病で亡くなったのではなかったのか? いや、違う。心を落ち着け、昔の苦しい思い出を頑張って脳裏に思い浮かべる。兄は、流行病には罹らなかった。家族の埋葬は、兄と共に行った覚えが、確かに、ある。そして。そっと、両手を見詰める。指に絡んだ兄の血の感覚が未だに残っているような気がする。兄は、……禎理を庇って殺された。震えが、止まらない。自分は、庇われるに値しない人間だ。何もできないみそっかすの自分より、兄が生き延びていた方が、有用だっただろうに。
と。
「どうしたの、禎理」
温かい感覚が、禎理の全身を包む。
「顔色が悪いわよ。怖い夢でも見た?」
弟に接するような七生の声に、禎理ははっと我に帰った。今は。……考える時では無い。天楚に、戻らねば。
禎理は心配無いと言うように七生に微笑みかけると、帰り支度をする為に立ち上がった。




