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明日の風に・中世心火編  作者: 風城国子智
第三章 君を聴す風
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3-4

 夕方の風が、灰茶色のぼさぼさの髪と、留め金でしっかりと留めていた筈のマントをふわりと浮かせる。手綱を握っていた左手でマントを押さえ込みながら、禎理ていりはちらりと後ろに座っている七生ななおを見た。だが。見なくとも、禎理の腰に回されている腕の冷たさを感じるだけで、七生が疲れていることが分かる。


「少し、休憩しようか?」


 手綱を引いて馬を止めた禎理に、七生は首を横に振った。


 六角ろっかく郷まで薬草を届けに行った帰りである。行きは、禎理と七生に九七一くないが付いていた。


「絶対に、無茶はするなよ」


 体を呼ぶ為に一旦魔界へ戻る九七一は、そう禎理に釘を刺した。今日は六角郷に泊まるように、とも。だが。歩くと一日掛かりになる遠さの六角郷まで最速で行く為に馬を借りたのに、六角郷に泊まるのはおかしいとの七生の言で、禎理は夕刻の中、七生と共に天楚てんそへの帰り道を急いでいた。


 七生の焦燥は、分かる。天楚で苦しむ病人達のことが、心配なのだ。六角郷へ禎理と一緒に行くことも、渋っていた。それを、「六角郷にも、禎理の名付け子を始めとして病で苦しんでいる人々が居る」という理由で何とか説得して――七生と一緒に行動しないと九七一が魔界に行けない――、七生は禎理と一緒に居る。


 徒に焦っても、仕方が無い。期待が外れると落胆が大きいから、魔界の医師である体のことは誰にも言わないよう、九七一には言われている。だが体が来てくれたら、疫病の件は何とかなるだろう。何と言っても体は魔界の医師なのだ。人間が知らない物事を、多く知っているに違いない。だから。禎理はそっと手綱を引くと、道横の森の中へ入って行った。


「何処に行くつもり?」


 後ろの七生が体を揺らして抵抗する。


「今帰っても、市門はもう閉まってるよ」


 禎理はそれだけ口にすると、森の奥へと馬を進めた。


 四路しろ河を挟んだ天楚市の向こう、六角郷の北側には『蛇神の森』という太古からの深い森が広がっている。葉を落とした木々が侵入者を拒絶するかのように枝を広げ、冬でも葉を落とさない木々が闇のような影を作る森だが、この森で育った禎理と七生――禎理は森の奥の方で、七生はもう少し入り口近く――にとっては、この光景は幼き頃より見慣れたもの。


 森の奥に少し入った所に見つけた、小さな洞窟の前で、馬を止める。まだ少し怒った顔の七生を馬から下ろして洞窟の中に座らせてから、周りに散らばった枯れ枝で洞窟の入り口に小さな焚火を作る。禎理の肩掛け鞄に入れっ放しで少し歪んだ干し肉を炙って七生に渡すと、七生は少しだけ笑顔を見せた。


「まあ、仕方がないわね」


 少し、焦っていたかもしれない。一つのマントに一緒に包まり、焚火の光が洞窟を照らす様子を見詰めながら、七生が呟く。明らかに一息ついた七生の様子に、禎理は思わず、微笑んだ。


 だが。今此処で『天の輩』が襲って来たら、どうしよう。不意に、不安が脳裏を過る。自分は、この七生を守れるのか? だがしかし、禎理は首を横に振ると、身体をぴったりと寄せてくる七生をそっと抱き締めた。ここは、太古からの土地神毘央びおうが支配する『蛇神の森』だ。彼奴らも、ここで槍を振ることはできない。


 七生の温かさが、心に染みる。禎理は静かに、七生の傍で横になった。

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