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明日の風に・中世心火編  作者: 風城国子智
第二章 虚の見る夢
35/60

2-15

 はっと、目を覚ます。ずっと上の方に微かな明かりが見えるだけの暗闇が、禎理ていりを出迎えた。


 ここは、何処だろうか? 横たわったまま、ゆっくりと首を動かす。身体が重くて動かせない。まるで、何か重いモノが乗っているような……。目にしたものに、禎理は思わず怒鳴った。


風神かぜかみ!」


 仰向けに横たわる禎理の腹を枕にして、風神が暢気な顔で眠っているのが見える。


「重い! 退いて!」


 勢いを付けて起き上がるなり、禎理は風神を邪険に振り払った。この風神に、遠慮は無用。


「むぅ」


 まだ少し寝惚けているらしい、風神のぼうっとした瞳が、禎理を見詰める。


「おなかすいた」


 次に出て来た、風神らしい言葉に、禎理の腹立ちは呆れに変わった。この神は、変わらない。自分と同じ顔立ちを、じっと見詰める。このどう見ても普通の少年にしか見えない神が、この世界で一番の『力』を持つ神だとは、誰も思うまい。


「食料は?」


 禎理の思考を全く知らないのか、風神が間抜けな声を出す。禎理はふっと息を吐くと、上の、少し明るくなっている部分を指差した。


 壁を調査している時の昼食は、六徳りっとくが真鍮の容器に入れて持って来るシチューだった。今日も持って来てくれる筈だが、エックやアルバが使っていたロープは既に撤去されている。禎理の背丈の三倍は有る土壁を登らない限りシチューにはありつけない。


「むう」


 君が穴に落ちなかったら、昼御飯にありつけたのか。不満そうに禎理を見つめる風神に怒って良いのか笑って良いのか分からない。穴に落ちた点に関しては、禎理自身、エフェスから逃れる為とはいえ、何時に無いドジをしたと呆れているのだから。


 そういえば。ふと、気付く。禎理の背丈の三倍は有る高さを落ちたのだから、何処か酷い怪我をしていてもおかしくはない。なのに、風神と同じようにお腹が空いているらしい模糊もこが禎理の首筋を舐めるくすぐったい感覚以外に、禎理自身に怪我の感覚は、無い。おそらく、風神が治療してくれたのだろう。


「うーん、じゃ、さっさと終わらせようか」


 不意に、風神が禎理の腕を掴む。そして風神はそのまま、禎理を横穴の方へと引っ張っていった。


「ちょ、ちょっと、風神」


 唐突な風神の行動に、戸惑う。アルバの報告では、この横穴には何も無かった筈だ。それなのに、風神は、自分を何処に連れて行く気なのだろうか? せめて、説明が欲しい。そう声に出した禎理に、風神はただ静かに笑い、禎理を引っ張って横穴に入った。


「禎理は歩くだけで良いからね」


 光一つない暗闇の中で、風神の声が響く。歩くだけも何も、見えるものも聞こえるものも無いのだから、風神に従う他、無い。だから仕方なく、風神に導かれるまま、少し躊躇いがちに歩く。暗闇の洞窟は、地下なのに何故か乾いていて、そして道は少し下っているように禎理には感じられた。


「足を踏み外すようなことは無いから、安心して」


 禎理の左手首を握ったまま前を歩く風神の声が、響く。禎理の歩みを、少しは気遣っての言葉だろうか? いや、おそらく違う。その証拠に、風神の歩みは普段の、地上を歩いているときと同じテンポで、付いて行く禎理の足が時々縺れてしまう。


「もしかして、寝ながら歩いてる?」


 人間って器用だね。風神の言葉に、何も言えず、息を吐く。確かに、この洞窟に入ってから何故か眠気と戦っているような気がするが、禎理の歩みが変なのは、正直怖いから。何が有るか分からない暗闇の中、堂々と歩けという方が無理だ。


 だが。


「眠った方がいいかもね」


 そう言うなり、風神は禎理の身体を冷たい洞窟の壁に押し付ける。


「膝枕、してあげようか?」


 風神の細い膝では、枕にしても眠れない。そう言う前に、禎理の意識は倒れ込むように薄れた。

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