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明日の風に・中世心火編  作者: 風城国子智
第二章 虚の見る夢
31/60

2-11

 その日の、夕方。


 疲れた身体を引き摺って帰宅する禎理ていりは、狼狽顔のエックとアルバが路地を飛び出して来たのを見て、慌てて声を掛けた。


「チユが、いなくなった」


 禎理の疑問に答えたのは、アルバ。


「早く探さないと」


 エックの方は、それだけ言い残すと、アルバを置いて別の路地へ飛び込んだ。


 何が問題なのだろう? 何時に無く急いたエックの言動に、首を傾げる。とにかく、チユは同じ冒険者宿の仲間だ。困っているなら助けないと。禎理はアルバと共に、天楚てんその路地に飛び込んだ。


 と。


「チユ!」


 広場の方から聞こえてきたエックの大声に、驚いて駆け出す。


 天楚の広場の、聖堂がある一角に人だかりができていた。


「どうした、エック!」


 その人ごみをかき分け、一息でエックの傍に立ったアルバに、エックが上を指し示す。アルバに釣られるように上を見た禎理は、思わず息を呑んだ。聖堂の鐘楼部分に、夕日を背にした布のような影が見える。チユ、だ。禎理がそう認識するより早く。折からの風にはためくように、影がふっと鐘楼から滑り落ちた。


「チユ!」


 絶望の叫びは、アルバのものかエックのものか。だが禎理の思考は、不意にぐっと宙を舞い、チユの黒いローブを掴んでいた。


 途切れた思考が蘇った時には、禎理は何故か石畳の上に横たわっていた。


「禎理!」


「大丈夫か?」


 困惑と歓喜が入り交じったアルバとエックの間に、チユらしき姿が、確かに見えた。


「何故、助けたの……?」


 細いチユの声が、耳を打つ。そのチユの、いつも被っている頭巾が取れて、顔全体が赤黒い火傷の跡に覆われているのを見たのが、禎理の最後の思考だった。

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