2-10
今夜も、叫んで飛び起きる。
夢に出て来たのは、エフェス。
「お前が居るから、私は認められないんだ!」
そう言いながら禎理の首を絞めるエフェスを、何とか振り払った所で目が覚めたのだ。
ベッドの上に座り直し、腕を組んで息を吐く。エフェスの怒りは、分かるつもりだ。禎理という、低身分の、しかも正規の大学教育を受けていない人間が、嶺家文字という古代の難しい魔法文字を解いているのだから。大学教育を受け、教授資格を取って助手の職に就いているエフェスから見れば、禎理は歯がゆい存在だろう。それでも。
「夢にまで出て来ることはないじゃないか」
思わず、呟く。どうせ首を絞められ殺されるのなら、兄か珮理に殺された方が、まだ、マシだ。
虚ろな気分のまま、調査現場へ向かう。
「おはようございます」
先に挨拶して来たエフェスは、普段通り、青白い顔をしていた。
そのエフェスに会釈して、昨日清書した羊皮紙の下書き分を手に、脚立に昇る。昨日付けた赤チョークの印が消えているのを気にせず、禎理は昨日何処まで解読したか思い出そうとした。だが。
〈あれ?〉
声が出そうになるのを、何とか押し止める。手にした羊皮紙の内容と、壁に書かれた内容が、全く違っているのだ。
羊皮紙が、改竄された? 思わず、背後のエフェスを見る。しかしすぐに、禎理は視線を壁に戻した。清書分があるのだから、羊皮紙の改竄は自分の罪を白日の下に晒すだけだ。そんなことは、プライドの高い人間はしないだろう。と、すると。もう一度、壁の文字をまじまじと見詰める。嶺家文字は、魔法の文字、だ。壁に書かれていても、勝手に変化する可能性は、無きにしもあらず。とにかく、金衡教授の手元に有る羊皮紙と比較すれば済む話だ。禎理はそう考え、心を落ち着かせた。




