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目を開けると、明るい天井が見えた。しかし、意識は澄明だが、身体が動かない。
「……起きたか?」
戸惑う禎理の耳に、数の静かな声が響く。何とか首だけ動かすと、禎理の顔をペロペロ舐める模糊の向こうに、数の暗い影が、あった。
「もう少し寝ていろ」
『石』の想いに引きずられてしまう所為か、『石』を滅する際には『担い手』の方も、気力や体力をかなり消耗するらしい。数はぶっきらぼうにそう説明してから、禎理の肩まできっちりと軽い布団で覆った。そしてそのまま、開け放たれた窓から外を見やったまま、動かない数。顔は昨日と同じなのに、数は一気に年を取ってしまったように禎理には見えた。その、原因は、勿論。
「……仕事は、終わった」
長い沈黙の後、ついに数が口を開く。
「魔物は回収して魔界に戻したし、森に居続けたいという者は毘央の元に預けた」
魔物の血入りワインの製造に関わっていた莞備公妃は、天楚を追われた。王家に繋がる大貴族でさえ極刑に処されることが天楚中に知れ渡った上に、件の六角公が目を光らせているから、魔物を捕獲する者は激減するだろう。そう、話している間も、数は禎理の方を全く見なかった。
「エミリプ達は皆帰したし、風神も次の仕事をしに行った」
一呼吸置いてから、数は残りの言葉を一気に吐き出す。
「珮理も、逝ってしまった」
数に珮理の事を言われ、禎理は思わず俯いた。
布団の中から腕を出し、両の手をじっと見つめる。この手で『石』を珮理の胸に持っていき、珮理を殺したのだ。後悔に禎理の全身が震え出す。感情が涙となって流れ出した。
「……禎理、おまえが自分を責める必要はない」
不意に、数の声が耳元で響く。いつの間にか、数は再び禎理を見下ろしていた。
「諸悪の根源は俺に有る」
数の口調は、先程とは明らかに変わっている。驚いて顔を上げると、数の顔はこれまで見たことがないほど歪んでいた。
「そう、俺が、あの時もっとしっかりしていれば、珮理を、あいつをあんなに苦しめるような事にはならなかったんだ……!」
全身をわなわなと震わせて、数が叫ぶ。
「なのに、あいつは、最期まで笑っていやがった……! くそ、くそぉ!」
全身で泣く数を、禎理はただ呆然と見ているしかなかった。
「……すまん」
唐突に、数が顔を上げる。
「別に後悔している訳じゃないんだ。……ただ、悲しいだけだ」
そう話す数の声は無限の悲しみに満ちていた。
「だが、おまえは泣くな。……おまえは、ただ、珮理の望みを叶えてやっただけなんだから」
泣くな、と言われても、我慢できる訳が無い。数の言葉に、禎理の眼から大粒の涙が零れ落ちた。
唇の傷が、今も疼く。
「俺は、魔界に帰る」
再び唐突に、数はさっと立ち上がり、禎理に背を向けた。
「九七一と百七に、おまえの身の振り方の面倒を見てやるように言いつけてある」
そしてそのまま、数は禎理の方を一度も振り返らずに部屋を去って、行った。
一人になると、禎理は首を動かし、先ほどまで数が見ていた窓の向こうを見た。
澄明な空から盛んに舞い降りてくる風花が見える。
〈もう、冬なんだ〉
何の脈絡も無く、そんなことを考える。
禎理は、溢れ出る涙をぬぐおうともせずに、いつまでもその光景を眺めていた。




