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明日の風に・中世心火編  作者: 風城国子智
第一章 血が喚ぶ者
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1-18

 夜の天楚てんそ市を、あてもなく彷徨う。夜空は曇りで、既に公式の消灯時間は過ぎている為か、通りは殆ど真っ暗で、僅かな常夜灯だけが寂しく光っているだけだった。


 何処に、行こうか? そっと、自問する。何処に逃げても、風神かぜかみは必ず自分を捕まえるだろう。何となく、禎理ていりはそう、思った。……それでも、逃げたかった。珮理はいりを、彼女を殺すことだけは、したくないから。


 と。暗闇の何処かから泣き声が聞こえて来、禎理は思わず顔を上げた。


「誰?」


 おそらく、赤ん坊が夜泣きをしているのだろう。そう思いながらも何故か気になって、辺りを見回す。次の瞬間。不意に帳が取り除かれたように周りが明るくなり、禎理は思わずあっとなった。禎理の目の前に、灰茶色の髪をした四、五歳位の男の子が現れる。しゃがんで泣いているその子はどこか誰かに似ている。


「君は、一体……」


 知らず知らずのうちに、その子の方に向かって腕を伸ばす。だが、腕を伸ばした瞬間、男の子も明かりも、綺麗さっぱり消えてしまった。後に残ったのは、普通の市街の暗闇のみ。


「何だったんだ……?」


 呆然としながら、思わず、呟く。だが、禎理が答えを得る前に、暗闇から伸びてきた腕が禎理の口と胸を押さえた。


「なっ……!」


 口を押さえている手の感触から、禎理を襲い続けている吸血鬼だとすぐに分かる。肌で感じた吸血鬼の牙を、禎理は身を捻ることでかわした。……珮理から受けた傷を、上書きされたくない。だが。それでも、吸血鬼の牙は執拗に禎理の首筋を狙う。禎理自身にも迷いがあった。


〈このまま、ここで……〉


 少なくとも、ここで禎理が死んでしまえば、禎理が珮理を殺すことは、無い。そんな思いが、脳裏を過る。


 と、その時。


「この石が、私を魔物にしているの」


 この言葉と共に発せられた、悲しそうに目を伏せた珮理の顔が、禎理の心に浮かぶ。


「一番辛いのは珮理なんだからね!」


「こうする事で一番辛かったのは珮理なんだ」


 珮理の表情と共に現れた、勝ち気な運命神の声と、後悔を隠した風神の声が、禎理の心を決めた。


 身を捻り、背後の吸血鬼に強い肘鉄を食らわせる。六角公から貰った短剣を構えて吸血鬼に正対する禎理の目に、吸血鬼の腰のベルトに配された飾り玉が光った。


〈あれ、だ……!〉


 身を屈め、吸血鬼に向かって突進する。吸血鬼の横を通り抜けざまに赤く光る飾り玉を掴むと、禎理はそのまま吸血鬼を置いて通りの向こうへと突進した。だが。身体にかかる急な重みに、地面に激突してしまう。『石』を持つ禎理の左腕を、吸血鬼が無理な方向へと捻る。禎理は思わず悲鳴を上げた。それでも、『石』は放さない。放すわけには、いかない。


 と。


「禎理!」


 鋭い声と共に、痛みと重みから自由になる。顔を上げると、丁度、魔王(すう)が吸血鬼のぼろぼろの襟首を掴み上げたところだった。気を失った吸血鬼を、数が後ろに投げる。吸血鬼が落ちた所に六角公ろっかくこうが駆けつけ、吸血鬼を縛り上げた。


「これで、良いだろう」


 一気に増えた松明の中、集まった平騎士達に引きずられるように連れて行かれる吸血鬼の見窄らしい影を見つめながら、数が一人呟く。これで、天楚の吸血鬼事件は解決したのだ。あとは。


「帰るぞ」


 あくまで静かな数の声に、こくんと頷く。いつの間にか、数の横には風神が立っていた。


「行こう、禎理」


 風神が、禎理の右腕を掴んで、立たせてくれる。無言のまま、三人は帰途についた。

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