表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日の風に・中世心火編  作者: 風城国子智
第一章 血が喚ぶ者
17/60

1-17

 気が付くと、禎理ていりはベッドの脇に尻餅をついていた。その横で風神かぜかみが禎理の手をしっかりと握っている。


「……大丈夫?」


 風神の問いに首を縦に振る。だが、告げられた真実が禎理の胸を突き刺している。その痛みだけは、感知できた。


 禎理の顔を覗き込んだ風神は、禎理がなんともないことを確かめ、ふっと笑って話を続けた。


「僕は、風神だから、『石』が壊れる痛みを受けても自分まで壊れずに済んだ。まあ、数十年くらい力が戻らなかったくらいかな。……けど、珮理があの痛みを受けたら」


 そこで風神は一旦言葉を切る。その言葉の続きは、聞かなくても大体分かって、いた。


「間違いなく、魂ごと消滅してしまうだろうね」


「そんな……!」


 魂が有ってこそ、『この世界』で輪廻転生が出来る。だが、魂が消滅してしまったら、『珮理』という存在は生まれ変わることができず、永遠に失われてしまう。


「珮理さんは、このこと、知ってるの?」


 風神の目を見ながらゆっくりと尋ねる。返ってきた答えは禎理にとって更に衝撃的だった。


「もちろん。僕が全て話した」


 禎理は卒然と理解した。何故、数が吸血石を探すのをあんなに嫌がっていたのかを。そして……。


「ちょ、ちょっと待って!」


 ある考えに行き当たり、叫ぶように風神に尋ねる。


「それって、もしかして、僕が珮理さんを消しちゃうってこと?」


 珮理を除けば、『担い手』となることができるのは禎理のみ。今『吸血石』を滅ぼすとしたら、必然的に禎理が『担い手』の役割を担わなければならない。動揺する禎理に、風神は禎理の目を見てはっきりと答えた。


「そうだ」


 風神の答えは残酷に禎理の胸を刺した。


「そんな……!」


 あまりに重い真実に、泣きそうになる。禎理は頭を抱えて呻いた。


「……まあ、半分になった吸血石が揃ってから、の話だけど」


 風神はつと立って禎理から離れると、窓の桟に腰を下ろした。


「それに、たとえ石が見つかったとしても、滅するかどうかは君の意思さ」


 心から拒否している者に無理矢理何かをさせることは出来ない。風神はそう言うと、懐から銀色の横笛を取り出し、吹き始めた。蕭蕭としてもの悲しい音色が部屋中に響く。禎理は落ちていた毛布を頭から被り、膝を抱えた。


〈僕が、珮理さん、を……〉


 暗闇の中、そっと、両手を見つめる。


〈……できない!〉


 できるわけがない。優しくしてくれた人を、この手にかけることなど。禎理の目から大粒の涙が零れ落ちた。風神の意思の強さからすると、必ず、『吸血石』は見つけ出されるだろう。それは、禎理の頭でも推測できる。その推測から導き出されることは、唯一つ。


〈嫌だ……!〉


 毛布を被ったまま、叫ぶ。自分にできることは、唯一つ。


 そっと、毛布から顔を出す。笛の音も、風神の姿も何処にも見えず、部屋の中には夜の闇が広がっていた。


 静かに立ち上がり、ベッドに眠っている珮理を見る。静かに眠っているその姿は、とても綺麗で、自分の血を吸った吸血鬼とは似ても似つかない。この人を、殺せるのか? もう一度、自問する。しかも、殺すのは身体だけではない。生きとし生けるものの根源である『魂』まで、殺すのだ。……そんなこと、できるわけがない。


 唇の傷が、疼く。禎理はくるりと向きを変えると、何も持たずに部屋を飛び出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ