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屋敷の地下は、ごった返していた。樹皮で編まれた籠が床を覆い尽くさんばかりに並んでおり、しかもその籠が時々激しく動いている。足の踏み場が見つからず、禎理は入り口で立ち尽くした。
「よう、禎理」
そんな禎理の前に、九七一が一息で現れる。
「見つけてくれてありがとな」
そう言いながら、九七一は禎理の髪をぐちゃぐちゃにした。
「いや、六角公様のおかげ……」
「君が眠っている間に、君の記憶をちょっと拝借したよ」
禎理が首を振るその横で、風神が禎理にそっと囁く。
「起こすのも可哀想だったから。……ごめんね」
「ううん」
風神の言葉に、禎理は少しだけ笑って首を横に振った。吸血鬼に連れ去られて地下牢へ閉じ込められ、その後は六角公の後に付いて行っただけなのだ。法力あるいは魔力に近いものを使わない限り、魔物達が捕らえられている部屋の場所について禎理に説明できたとは思えない。それよりも。
「こんなにあったの?」
もう一度地下室を見回して、そう問う。公妃の地下牢は暗かったので、籠の数については把握していなかったのだ。
「まだあるぜ。あの部屋だけじゃなかったようだし」
この分だと、蛇神の森へ彼らを移すのも大変だろう。九七一はそう呟くと、しかしすぐに禎理を見てにっと笑った。
「ま、お館様が何とかしてくれるさ」
「何とかしたぞ」
不意に、鋭い声が部屋に響く。振り向かずとも、魔王数が禎理の後ろに立っているのが、九七一の顔色の変化で分かった。
「お喋りはいい。早く全部ここに連れて来い!」
数の声に、九七一の姿は一瞬にして消える。
「ちょ、ちょっと、数!」
その時になって初めて、風神が困ったような声を出した。
「せっかく九七一に昼御飯を買ってきてもらおうと思ったのに」
禎理と風神が地下室に来た理由は、台所に食料が全く無かったから。エミリプ達も働けばお腹が空くだろうに。そう言いながら、風神は恨めしそうに数を見た。
「自分で買いに行け」
対して、数はやっぱり素っ気ない。指をパチンと弾いて空中から小さな袋を出すと、その袋を禎理に手渡した。
「銅貨しか入ってないが、足りるだろ」
つまるところ、禎理と風神で街へ買い物に行かなければならないらしい。背筋が震え、首筋の傷が疼く。吸血鬼は何処に逃げたのか分からない。そんな状態で街中を歩くなど、自分にできるだろうか?
「吸血鬼が昼日中に市内をうろついていたという報告は無い」
そんな禎理の心の内を察したのか、数が薄く笑う。
「うろつくなら、薄暗い森の中くらいだな」
その笑いは禎理の癇に障ったが、情報を教えてくれたのは正直言って少し嬉しかった。その、ついでに。
「あの、数」
風神から一歩だけ離れてから、数の黒服を、少しだけ引っ張る。
「何だ?」
「あの子は、本当に『風神』?」
禎理の問いに、数は一瞬だけ惚けたような顔をし、そして大笑いした。
「本物さ。本人に聞いてみればいい」
それが、できれば。
「できるさ」
再び禎理の心を見抜いた数が、今度は囁くように言った。
「あいつは、誰よりも『この世界』と、……お前や珮理のような奴を気遣っている」




